強制的に労働時間を削減することは、周囲に気遣って付き合い仕事をする「ダラダラ残業」や、日中はアイドリング状態で夕方から本気を出す「5時から仕事」のような、働き方の中にある習慣性のムダを取り去る効果があります。過剰な労働時間が減れば、少なくとも労働者の心身の健康は守られ、結果として会社の利益を高めることにもつながるでしょう。

その一方で、こんな状況があります。
先日、部品メーカーの技術担当であるSさんが私に愚痴をこぼしました。大手取引先向けの製品に不具合が多発して社内で大騒ぎになっていたときのこと。Sさんは上司から「不良ロットの履歴を至急調べてくれ」と指示されたそうです。履歴調査は、段ボール箱に保管されている山のような帳票を1枚ずつめくって確認していく作業です。

「なんで、この俺が、こんな単純作業をやらされるんだよ」
「こんなデータ調べて役に立つのか?」
「やってもやっても終わらないよ」

そんなことばかり思っていると、なかなか作業に身が入りません。イヤイヤ、ダラダラしているうちに上司からは「いつまでかかってるんだよ!」とお叱りの声が…。

 

みなさんにも同じような経験はありませんか?
仕事に気持ちが向かっているか、気が反れて散っているか。気持ちが入った状態で集中して仕事に取り組まないと、時間はいくらあっても足りません。

アメリカの心理学者のチクセントミハイは、内発的動機によって作業に没頭している状態のことを「フロー状態」と名付けました。フロー状態で仕事をすると、時間の感覚がなくなり、能力以上の力が発揮できるため、生産性が飛躍的に向上するというのです。楽しくて夢中になっていると時を忘れる。

ある調査結果によると、成人の8割以上が一度はこうした経験をしたことがあるそうです。このような内面の状態が生産性に大きく関わるという意味で、「はたらく心になっているかどうか」もまた働き方改革の重要な一面だと私は考えています。

では、どうすれば日々の仕事をフロー状態にできるのでしょうか。

仕事をフロー状態にする4つの条件

(1)仕事の目標を明確にする

Sさんの場合は履歴調査を急ぐ意味がわかっていなかったため、「いつまでに結果を出そう」という目標を決めていませんでした。

(2)自分の能力を最大限発揮させる

帳票をめくりながら書き出すという単純作業は、技術者であるSさんにとって自分の能力を生かせる仕事とは思えなかったようです。

(3)自分の意思で仕事を進める

Sさんは作業を強制されたと感じていたため、自分のこととして目的意識を持ち、やり方を工夫することも考えませんでした。

(4)リアルタイムで手ごたえを感じる

Sさんのように莫大な量の帳票を片っ端から片付けるのではなく、いくつかの束に分けてやるなどの工夫をすると、進んでいる感が得やすくなります。
また、周りからも「すごい! ここまで進んだんだ」「あと半分だよね、頑張って!」といった声をかけてもらえると、さらに気持ちが乗ったかもしれません。

これらの条件を個人の努力だけで満たそうとしても限界があります。
組織として、メンバーの「心のはたらき(内発的動機)」をサポートする職場環境が必要なのです。

・仕事の意味・目的・価値を上司と共有していること
・各自の能力に応じた分業ができるチームになっていること
・相互に信頼し合って仕事を任せられていること
・メンバーが互いの仕事に関心を持ち認め合っていること

こうした職場環境づくりが、仕事への集中度を高め、働き方改革を飛躍的に前進させる基盤になるのだと思います。