改善活動のはじめは、お互いの人となりを知る

A市生活部市民課では、業務の要となっていたベテラン職員の多くが人事異動となり、結果、職員の半数近くが新しいメンバーとなりました。人事異動後の窓口対応はかなり混乱し、職員は皆ヘトヘトでした。その混乱は3カ月ほどたった後もなかなか解消されず、職員同士がバラバラになっていました。だから、業務改善活動についても、「一人一改善」などいくつかの活動は行なわれていたものの、皆が改善より目先の業務に追われている状態だったのです。
この混乱した状態をなんとか乗りきっていこうと、庁内で始まった「A市改善活動」に市民課も部署として手を挙げ、係を越えて職員が横断的に集まり改善していくための取り組みを始めたのです。そして、若手と副主幹級の2チームで、まずは「職員同士が、互いの人と仕事を知ること」を目的に、ほぼ月に一回のミーティングが始まりました。
市民課には3つの係がありますが、仕事においては縦割状態で、お互いに仕事への関心が薄く、たとえば窓口係の大変さは他の係から見てわかるものの、実際どんな仕事で何に困っているのかをほとんど知りません。窓口係にいたっては、縦割に加えて階層の横割もあることから、同じ係の中でも個々人で仕事をしてしまっている“升割(ますわり)状態”だという表現が出てくるくらいです。

ミーティングを重ねていきながら、チームメンバーがお互いの人と仕事を知り合うようになってきたある日、課長を交えたミーティングで「俺たち声が出てないよね」という発言が出てきました。それをきっかけに、始業前に庁舎の前に立って皆で挨拶をしよう、ということになりました。特に窓口係の場合、全員が挨拶に出て窓口を空にするわけにはいきません。庁舎の外で挨拶をする人と、窓口を開ける準備をする人というように、特に決め事をしなくても、自然にそれぞれが役割を分担し当日を迎えました。
挨拶に立った職員からは「思ったより挨拶が返ってくる。朝8時30分の始業から声が出せて気持ちがいい」といった感想が出てくる一方で、窓口を開ける準備にまわった人の中にも、いつもは始業ギリギリに出社する職員がその日は早く来た、というサプライズ(?)もありました。どちらの役割を担っていても、皆で一緒に何かを乗り越えた感覚があったのでしょう。その日は朝から市民課のフロア中が明るい雰囲気となりました。
これをきっかけに市民課内では、お互いに話しやすく、仕事でも協力を求めやすくなりました。窓口係内の業務改善も進みやすくなり、係を横断して活動する改善チームではいちばん困っている窓口係のことを他の係でも一緒に考えようと新しい取り組みを始めました。マニュアルには記述されず、気がついた人任せになっていた業務=グレーゾーンを見える化し、優先順位づけをする取り組みです。

このA市生活部市民課の事例はこれからが改善の本番ですが、職場で働く人たちが仕事の中で皆と一体感を持てているか、一緒にやろうという空気があるかどうかの重要性を教えてくれます。日々の業務は、お互いの人と成りや仕事の内容を深く知らなくても、当然進んでいきます。しかし改善活動においては、当該職場のメンバー同士はもちろん、職場内外の協力関係が不可欠です。まずはチームメンバーが、互いとその仕事を知り、具体的に行動していく。このプロセスを経ながら、互いの信頼関係が醸成され、チームとなって安心して前に進むことができるのです。

改善の目的・目標を明確にする

ところで、この市民課の改善活動では、若手と主幹級のチームは何を目指しているのでしょうか。互いに知り合うことはできたのですが、いろいろな改善をしながらも、「何のために改善するのか」、つまり活動の先にある目的・目標は明確になっていません。上司である課長とチームメンバーの間で、今、部が抱えている組織の重要課題に対して、それぞれのチームの改善をどうつなげていくのか、という話し合いが始まったばかりです。
目的や目標を明確にしていくには、活動に取り組むメンバーの上司のリーダーシップのあり方が重要になります。リーダーやメンバーの選定のし方、組織ビジョンや重要課題から活動の目的をすり合わせる話し合い、チームの活動プロセスを見ながら自律的に動けるような適切なアドバイスが必要です。ときには、他部署やさらに上の上司とつなぐ、つまりボトムアップとトップダウンをつなげるリーダーシップも必要になるでしょう。

よりよい仕事にしていく改善活動には終わりはありません。継続は力なり、です。しかし取り組んでいくとぶつかる壁がいくつかあります。「何が問題なのか」「どうすればうまくいくのか」。
私たちプロセスデザイナーも、皆様が取り組まれている業務改善の活動について、その改善のあり方や目的を変革当事者である職員の皆様と一緒に問い直しながら、風土改革の支援をしています。