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「何も動いていない」ように見える状態
そんな私に、当社のオフサイトミーティング活用セミナーに以前参加された県職員の方から相談が来ました。同セミナーにおいて、私がコーディネートしたオフサイトミーティングを体験された方でした。以前から熱心に「スコラ式のプロセスデザインを県の振興担当も身につけるべきだ」と、県庁内外で働きかけもされてきていました。
その方は、県の地域産業振興の役割を担っています。相談の内容は、「地域の農業振興を行ないたいが、その地域の鍵となる農業協働組合(以下、JAと表記)が動いてくれない。彼らを動かすために力を貸してくれないか」というものでした。そして、さまざまな方面へ働きかけをされ、私はJAに訪問することになったのです。
当初私は「県の施策に、JAの経営陣が納得していないのかもしれないな」などと思いつつ訪問しました。しかし、経営陣に話を伺うと「職員が思い通り動かない」と言います。経営陣の心理的理由で「動かない」のではなく、JA組織内にも「相手が動かない」問題があったのです。
そこで「動かない」職員数名に話を伺うと、本当に「動かない」のは一部の職員で、他の多くの職員は「動きづらい」あるいは「十分に動くことができず、成果に結びかつかない」というのが実態であることがわかってきました。
つまり、この施策に関わる多くの人たちが「動くつもり」ではあるのだけれども、施策の実行する担当者だけでは解決できない複雑な状況があり、そのため「何も動いていない」ように見える状態を生んでいるということだったのです。
担当者への圧力は「人を機械と見なす」という考え方
この「動かない」問題は、どんな組織にもよく見られる問題です。
「動かない」問題とは、要求をした側が受け手側(実行サイド)の様子を見て「動かない」と悩んでいる状況のことです。多くの場合、動くように促す圧力を強めます。しかし、実行サイドはいくら圧力を強くかけられても、「動かない」あるいは「動けない」理由があるため、事態は改善しません。それどころか担当者がその圧力に耐え切れず退職してしまったり、体調不良に陥ったりして、より問題を深刻化させてしまいます。
このような、担当者に圧力をかけるやり方は、「人を機械と見なす」という考え方が根本にあります。指示命令という情報をインプットしたにも関わらず、期待されたアウトプットが出ない時に、その担当者に原因を求め、そこを修理するという考え方です。機械の場合は壊れたら修理か取り換えを行ないます。修理とは、人で言えば指導・矯正であり、取り換えとは担当を別の人に換えることで す。単に圧力をかけるのは、自動販売機でボタンを押したのに商品が出てこず、自動販売機をバンバン叩いていることと似ているかもしれません。
言うまでもなく、人や組織は「生命体」です。つまり、人は組織の中での一つの細胞で、それが活性化していないのは、置かれている環境が良くないか、関係する細胞同士との関係が円滑ではないと見るのです。そして、そういった細胞の周りを活性化させるためには、問題を解決したい人もその状況の中に入り込み、指導・評価・分析でなく、起きている状況に共感的理解をしながら、当事者や関係する人々と一緒に考えていくのです。客観的立場で分析し、こうやるべきと権威を使ってやらせる方式では、一時的解決になる場合はありますが、根本的な解決にはなりません。
生命体が活性化するために
先にご紹介したJAの場合は、マネージャーと職員数名でオフサイトミーティングをやったところ、マンネリになっているイベントのやり方を自発的に改善しようということになり、実行に移されました。これは経営陣から見ると、今まで「言わないとやらなかった」「言っても、微々たる改善どまり」だったことです。ところが今回は大幅な改善が為され、何よりもやる気を出したメンバーが職員全員を巻き込んで行なう活動となりました。これは、仕事の分業化で分断されていた職員が、オフサイトミーティングという場(環境)を持ったことにより、気持ちとコミュニケーションを活性化させて動いたということです。
経営陣と職員・社員の関係は、生命体が活性化するための重要な要素であることは、民間でも公共組織でも同じです。経営陣のあり方は職員・社員にとっての環境であり、職員・社員のあり方も経営陣の意思決定に作用する環境です。このJAはその後、職員が意見を言う場を増やし、その声を取り入れながら経営の意思決定を行なうことも徐々に出てきているそうです。
私に相談をしてくださった県職員の方は、外や上からの指導や圧力では何も変わらない、その組織という生命体の中に入り込んで、何かの作用を変えることが大事なのだという考えを持っていらしたのではないでしょうか。
経営者もマネージャーも、何かうまくいかない、組織が動かないといった状況にある場合には、自分の中にある根本的な考え方を少し脇に置き、現場に目線を向け、そこで実際に動く人たちと共に考えていくということから始めてみてはどうでしょうか。