「とにかく納期厳守」は考えられない集団になる

あるメーカーでは、急激な規模拡大に伴って、仕事の細分化や業務量の増加が進み、職場や部署間でのコミュニケーションも希薄になって、個々の抱えるストレスが大きくなりました。仕事のしかたも変化し、期限を守りながらも部門間で話し合って「いかに質の高い仕事をするか」というやり方から、余計なことは言わないで「とにかく納期厳守」の仕事の進め方が優先されるようになりました。
「おかしい」と思って口を挟んでいると納期が守れなくなる、「なぜそれをするのか」などは聞いてはいけない、ことなどが、職場の暗黙のルールになりました。社員はしだいに「仕事とは辛いものであり、それはしかたのないことだ」と思い込むようになっていきました。それと同時に、目に見えないところでは、かつてのように自分たちの仕事に誇りや喜びを持てなくなっていったのです。

さらに不幸なのは、期限を守らせ、どんな仕事も受けてしまう上司が評価されてしまうことでした。一見、上司は会社のために貢献しているように見えます。けれど、部下たちは、納期のためだけの社内調整に追われ、考える余地も余裕もない状態で日々の仕事をこなしているだけでした。
上司のほうにもまた余裕がなく、業務量の調整や残業制限、教育や相談にも手が回らないままに部下の管理、評価をしている、という現実があります。そして、そのことがさらに職場のストレスに拍車をかけているのです。
こういう状態が長く続くと、人は考える意欲や気力を失い、結果として会社は「考えられない集団」になってしまうでしょう。

人と仕事を結び合わせている価値観は何か

あるメーカーのA部長がこんなことをおっしゃっていました。
「仕事は楽しいことばかりじゃない。辛いこともたくさんある。新しい仕事に挑戦することはすごく楽しいし、達成感もある。でも、失敗したらどうしようと思う、そのストレスは並大抵のものではない。なんだかんだ言っても会社組織では、結果を出さないと潰されてしまうからね。
そう考えると、自分の会社員としての人生は、むしろ苦しいことのほうが多かったかもしれない。でもね、でも、失敗の重圧はあっても、それを乗り越えて自分や部下が成長していく喜びのほうが大きかったから、僕らはそのたびに強くなってきたのだと思うんです。チャレンジしないとせっかくの人生、もったいないでしょ。だから、部下にもチャレンジする喜びを味わってほしいんだ。失敗してもかまわない。必ず自分の成長になるからね。それを支援するために、僕たちマネジメントや仲間がいるんだと思うよ」

人のやりがいや喜びは、仕事を通じて自分らしく生きている、自分が成長している、自分の仕事に誇りが持てる、という実感の中にあります。だからこそ、仕事と人を結び合わせるマネジメントは、重要な役割を担っています。

ただ効果的に、仕事と能力のマッチングをはかるのか。どんな働きかけや機会があれば人の意欲や持てる力が引き出されるか、を考えるのか。人は自分自身で「この仕事をやる」と決断した時、自分の存在価値を感じます。「人と仕事を結び合わせている価値観は何か」に目を向けて仕事をしているかどうかが、企業人のストレスと根深く関わっているように思うのです。