方針展開にあたってのズレ

ある会社の全社員が集まる方針発表会に参加する機会がありました。 トップが全社の方針を、続いて各部門長が部門方針について話します。トップが発表した全社方針の中には「組織風土改革の推進」という言葉がありました。 それを受けて、各部門長の方針の中にも同様に「組織風土改革の推進」という言葉が並んでいます。

しかし、その具体的な内容はというと、ある部門では「ワイガヤの開催」、別の部門では「社員満足度調査の実施」、またある部門では「定時後の社員懇親会(飲み会)の開催」というものまであり、まるで「組織風土改革」という言葉から連想されるものであれば、何でもあり、という様相を呈していました。

 

やや極端な例かもしれませんが、方針展開にあたって、このようなズレが生じることは決して珍しくはありません。

この会社の場合、方針に書かれた言葉だけが「伝言ゲーム」のように落ちていき、各部門や現場社員の間で「なぜ、今この方針が必要なのか」「この方針が真に意味するところは何だろうか」ということが深く議論されないままに、各部門、各自が方針を好き勝手に解釈した結果、一貫した意味を持たないバラバラの施策が乱立してしまったのです。

これでは、組織として方針が共有された状態とは言えないでしょう。

方針共有のカギは「チームによる対話」

それでは、どのようにすれば方針の意味は共有されていくのでしょうか。そのカギは「チームによる対話」にあります。

トップと現場では、どうしても日頃から見ている風景や情報の量や質に差があるため、方針の“真意”を的確に伝えることは意外と難しいものです。さらに、最近では方針自体も、既存路線の延長線上ではないイノベーティブな方向感を示すものが増えています。社員の側から見る方針は、よりいっそう抽象度が高くなっているのです。

このギャップを埋めるためには、方針を発する側にも本気で伝える熱意が必要になると同時に、それに呼応する形で、方針を“受け取る側”にも、受動的ではなく、より主体的に方針を咀嚼する姿勢が必要です。しかし、現場社員に見えている風景や情報はどうしても断片的であるため、個々が独力で咀嚼することには限界もあります。

こういうとき「チームでの対話」が効果を発揮するのです。

方針をめぐって、メンバーがそれぞれに見えている断片的な情報を互いに出しあい、それらを突きあわせて、方針の意味や目的を考え抜いていきます。一緒に考え抜くなかで視野が広がっていき、方針の真意といえる“全体像”をチームで見出すことができるようになります。そのようにしてチームの共通認識になった方針は、仕事をする上での共有された“判断軸”になるもの。部門ごとの現場や個々人の行動が“自分なりの理解”で拡散していくことを防ぎます。

もちろん、そこに至るまでの対話にはそれなりの時間を費やす必要があります。

しかし、バラバラに動き始めた現場の軌道修正をするためにとてつもない労力を要することを考えると、チームが同じベクトルでエネルギーを集中して動くための「対話」の意味は大きいでしょう。