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空気を読まない「イタンジ社員」
私たちの社内でも、数年前にこんなことがありました。
創業者の柴田は、自身の生き方をかけてプロセスデザイナーをやっている随一の存在であり、社会的な認知度や影響力も高いベストセラーの著者でもあります。その彼が著作の中で言っていることに疑問を投げかけたり反論したりすることはなかなかしにくいわけです。
ところが、ある全社会議の場で、話の流れから私はつい以前から思っていたことを口にしてしまいました。
「柴田さんは、本の中で、ロジカルシンキングでは考える力がつかないなどと言っているが、われわれはロジカルシンキングの効果を軽視すべきではないと思う」
案の定、大人の対応をしない柴田はムキになり、会議が終了しても話は収まらずに、そのままサシで激しくやり合うことになりました。結局、両者の主張は平行線のままで、別のメンバーが仲裁に入ってくれてやっとその場は収まりました。
組織の健全な問題意識を保つ「試行錯誤力」
そこで私が言いたかったのは、本に書かれた表現が社内外に必ずしも正しく伝わらないのではないかということでした。それに対し(つまり、柴田がロジカルシンキングを軽視しているとはもちろん思っていませんでした)、柴田は理解者であるはずの社内の人間に誤解されたと思ってショックを受けたということであり、真っ向から考え方が対立したわけではなかったのです。私が伝え方を間違ったのでした。
事情はともあれ、結果としてこのやりとりは、思わぬ効果を生むことになります。この一件がきっかけになって、柴田は自著を材料にして、社内の少人数で真剣勝負の対話セッションをやろうと言い出しました。異論を封じるのではなく表に出そうというわけです。この場は柴田の考え方を学ぶというものではなく、本を材料にしながら、それぞれの持論をぶつけ合うことが主旨でした。
ここ数年、私たちがよく支援先や講演で使っている「試行錯誤力」という言葉は、この場で生まれたものです。取りようによっては迷走するようなイメージも伴いがちな試行錯誤という言葉を、あえて前面に押し出し、答えの見えない時代に新たな方向性を見いだすために不可欠な能力として定義したのです。
私はスコラ・コンサルトをいったん飛び出して出戻った「前科」もあるような「イタンジ社員」ですが、そういう変わった人間が組織にいる意味も、上記のようなことからしてあるのだろうと考えることにしています。柴田もこのエピソードは、好んでお客さまに披露しているようです。
組織が同じ方向に束なることは理想的なことですが、そのような状態にあっても、ちょっと違う視点や感覚からずけずけとモノを言う社員は、組織の健全な問題意識を保つうえでも大事な存在ではないでしょうか。