震災がもたらした悲惨な状況を思うと、私たちは13年連続で自殺者が3万人を超える社会に生きていることにも、あらためて居住まいを正さなくてはならないのではないかと思います。この異常な事態をいつの間にか当たり前のように受け止めてしまっている自分がいることに恐ろしさを感じるからです。

私たちが目標として持つべき「ありたい姿」

人間は一人では生きていけない生き物です。しかし、社会の中でいつも忙しく生きていると、いつの間にか目の前に次々と現れてくるさまざまな事象に振り回されて、大切なことが見えなくなってしまいます。特に、周りの人に生かされてこそ今の自分はあるのだ、ということをともすれば忘れてしまいがちになることが問題だと感じます。

私たちにとって何よりも大切なお互いの絆すら見失いがちになる今の日本。この状態を当たり前だと思ってはならないのでしょう。現実と冷静に向き合うことと、何が本当の問題なのかに常に思いを巡らせること、私たちが目標として持つべき「ありたい姿」をしっかりと意識していくことがまず出発点だと思います。

平日の夕方にファミリーレストランに入ると、お父さんの欠けた母と子の家族が目につきます。絆、特にかけがえのない家族の絆すら、常態化した長時間労働によって失われがちな今の時代です。それを「仕方がない」とか「当たり前だ」と思ってはならないと思います。

働き方を変えること、働くことの質を格段に上げることがさまざまな問題解決の前提にある、と私は考えています。

「ありたい姿」を具現化する「変革力」を社会に定着させていく

そういう意味で、プロセスデザイナーとして、そして一人の人間として、私が追い求めていきたい今年のテーマは二つです。

一つは、私たちのめざす「ありたい姿」に、常に思いを巡らせていくこと。異常な事態に慣れてしまうのではなく、こうありたい、こうしていこう、という指針を明確に持ちながら生きていくことです。

二つ目は、この「ありたい姿」を具現化する「変革力」を社会に定着させていくことです。困難な問題と向き合い、働き方の質を変え、「ありたい姿」を具現化していく力を育んでいくのです。

 

「変革力」を社会に定着させる、ということは、目標を持つ組織であるなら必ず持っている方針(戦略)を、持つだけではなく実行していける「環境」をつくっていく、ということでもあります。

「変革力」の欠如は、不祥事やコンプライアンスがらみの問題を多発させます。「変革力」の欠如がモグラ叩き的な問題解決ばかりを蔓延させます。出口の見えない壁が立ちふさがっていると閉塞感が生まれます。この閉塞感が不祥事の温床なのです。

 

私は3年前にスコラ・コンサルトの代表を退任しました。それ以来、スコラ・コンサルトの経営に関与することはなくなりました。

しかし、今もなお風土改革の前線には一人のプロセスデザイナーとして立ち続けています。そして私は、「自分が社会の中でどのような位置にあり、社会のために何ができるのか」を今も自らに問い続けています。社会の中で自分の位置を常に問い続ける姿勢こそが組織風土改革の原点でもあるのではないか、と考えているからです。