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「首長の思い」と「職員の思い」のギャップ
議論のテーマは、「地域ビジョン実現のための行政組織の変革とリーダーシップ」です。これは、昨年全国の自治体を対象に行なった「行政組織の組織風土改革調査」の結果から設定しました。同調査では、「行政組織には、風土・体質や職員の意識改革が必要か」という問いに対し、ほぼすべての首長が必要だと回答していました。しかし一方で、「職員が改革に意欲的に取り組み、十分能力を発揮しているか」という問いに肯定的に回答したのは4割強に留まっていたからです。特に、首長の一期目には、「マニフェストが総合計画に反映されている」という回答が5割強に留まっており、計画に落とし込まれていない段階での組織マネジメントには一層苦労があるものと推察されました。
そこで、今年は、首長がマニフェスト等に掲げたビジョンを職員がいかに受け止め、自己の思考や行動、職場組織における習慣や仕事のやり方に変えていくのかを調べるために、首長の就任1年未満の自治体に特化して、行政職員全員を対象としたアンケート調査を実施しました。調査全体の詳細分析はこれからですが、「首長がマニフェストの中でまちづくりのビジョンを明確に掲げている」ことをほとんどの職員が認識しているものの、「首長の掲げるビジョンに対して、多くの職員が共感し、実現したいと思っている」という回答は半数以下という傾向が見られました。ここには、「首長の思い」と「職員の思い」のギャップが鮮明にでています。そして、就任後の首長にとっては、いかに職員の心に火をつけられるかが、当選後の最初の課題になっていることがよくわかります。
役場視点から町民起点に変える
議論の中で村林守教授は、「地域主権時代の組織経営改革」の全体像を解説されました。組織改革には、機構、制度、文化の三つの側面があること、三重県職員時代の経験から、各側面について、組織機構改革や経営システム改革、職員の意識改革が重要であること、また、改革ツールとしての総合計画のとらえ方を語られました。
また、小山巧町長は、マニフェストで掲げたビジョンの実現に向けた「南伊勢町経営改革の取組み」を紹介されました。中でも、これまで「行政主導・行政依存」であった町政経営を、これから「町民参画、町民と役場の協働、役割分担」に転換していくために、「地域づくり支援事業」を創設して、全職員が地区担当として地域に出て、住民の声を聞き、町づくりに参画する行動を起こすところから始めていることに特徴がありました。「役場視点から町民起点に」行政サービスを変えていくために、課長とは毎月1回課長オフサイトミーティングを開催して、その目的や価値観を共有し、忌憚なく話す場としています。係長や一般職員ともフリートークの場を設けて、方向性を理解し、納得してもらうための自由な意見交換の場を設定されています。
背景や目的から共有していくプロセス
私は、変革支援の実践者としての立場から「新首長のマニフェスト実現のための変革プロセス」を提案させていただきました。自治体によって総合計画等の取り扱いが異なる現実があり、計画の見直しが速やかに進められなければ、役所内が新と旧の価値観が交錯するダブルスタンダードの状態に陥ってしまいます。マニフェスト実現に向け計画を変えるためには、首長と職員の間で対話を重ね、背景や目的から共有していくプロセスが必要であると考えています。
地方自治体の首長は、たった独りで行政組織に飛び込んだ状態から改革をスタートします。そこから思いを共有できる職員を増やしていくことが貴重な第一歩となりますが、最初は、ものの見方、考え方など価値観にギャップが多くあることでしょう。両者の思いを理解し、翻訳や咀嚼をして橋渡しをしてくれる参謀役に助けを借りることも一つの方策と言えます。また、地域に入り、現実と向き合いながら住民目線を共有し、一緒に解をみつけていく中で関係が深まることもあるのだと思います。
今後、私もこういった課題を抱えた首長や参謀機能を果たす経営幹部の皆さんと議論をする機会を増やし、どうすればいいのかの方策を一緒に考え、築いていきたいと思っています。