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就職相談は「ジブンガタリ」から
同大学のキャリア教育カリキュラムは、座学だけではなく、さまざまな工夫がなされています。体験学習として1年次に「働く目的」を考える「ハタモク(※2)」、2年次に地域貢献活動、3年次にはインターンシップが展開されています。就職相談はその補完機能として位置づけられており、就職活動に関する相談、履歴書やエントリーシートの書き方支援、企業情報・採用情報など就職に関する情報提供、キャリアセンターとの連携等が私の主な業務です。
就職相談の初回は「ジブンガタリ」の対話から始めます。「どんな子供だった?」「好きだったことは?」「楽しかったことは?」といった質問をしたり、自己振返りシートを使って、今までの20年間の良かったこと・悪かったことを曲線で表す人生リズムや、自分から見た自分を書いてもらったりしながら対話をしていきます。
相談の最初に、自分に向き合うジブンガタリの対話を持つのには、理由があります。
学生からの相談は、下記の三つにほぼ集約されます。
(1)これからの方向性
「進むべき方向性がわからない」「やりたいことがない」
(2)自分自身に関すること
「学生時代に何もしてこなかった」「自分の良さがわからない」
(3)会社の選び方
「会社をどう選んだらいいのか、どう絞ったらいいのか」
どれもが、自分はどんな人間で、何に興味と関心を持っていて、これからどうなりたいと思っているか、自分自身への理解が曖昧、かつ、未整理な状態が起因しているように思えたからです。
相談に来る学生の多くは、おとなしく、まじめで素直です。中にはいじめや不登校の経験を持つ人もいて、自分に自信を持てないと感じている人も少なくありません。私が、成績評価者である教授ではなく、自分を知る親や友人でもない第三者であり、しかも完全外部ではなく大学が用意しているカウンセラーという安心感があるのでしょう。学生は、初対面であっても、言葉だけでなく、表情や態度など非言語のコミュニケーションも含めて、心の内を語ってくれます。
「自分と向き合う」プロセスが進路を考えるきっかけになる
私が特に感じるのは、本人がその人らしさや強みを自覚していないことです。誰しも自分のことは自分ではわかりにくいものですが、異なる立場や年代の違う人と話す機会、気づきを得るような対話の経験があまりないというのもあるかもしれません。
自分自身への気づきを促すために、対話の中で、私から「なぜそう思うのですか?」「もし~だったら?」というような投げかけをすることで、思い込みの枠に気づいてもらったり、「こういうことがあなたのが強みではありませんか」と第三者視点からの気づきを話したりします。中には、話しながら自分で自分の気づきを整理していく人もいます。
ジブンガタリ対話は、自分と向き合い、自分を見つめなおし、徐々に知らなかった自分を発見する機会となります。この「自分と向き合う」プロセスが、エントリーシートの自己PR作成につながっていくだけでなく、仕事・職業への興味・関心を広げ、会社選びの視点や選択肢を増やし、自分を取り巻く社会が将来どうなっていくのかを見据えて自らの進路を考えるきっかけにもなっています。
こうした状況から、就職相談というキャリア支援の姿勢を問い直していく必要があると感じています。学生に対して「就職できることに焦点を当てる」ことは部分であって、「就職活動というプロセスを通して自分と向き合い、自分自身と働くことを関係づけて、その人らしい人生の選択・決定ができるよう支援する」ことが、より大切になってきているのではないでしょうか。
12月から現3年生の本格的な就職活動が始まりました。企業の採用数に明るさは見られるものの、学生が一社目で就職が決まることはめったにありません。企業から断られたときのやり場のない怒りや挫折感、焦燥感を経験しながらも、改めて自分と向き合って気持ちを新たにしていく学生の姿には頼もしさすら感じられ、ジブンガタリ対話をして本当によかったと思う時でもあるのです。
スコラ・コンサルト CSコーディネーター
キャリアコンサルタント
荻田由紀