「関わらない」マネジメントが増えている

たしかに、地位による強制力で仕事を進める「やらせ」には、社員の自分で考える力を奪ってしまうという意味で問題がある。しかし、ではどのように接すればいいか? に対する答えのないなかで、「やらせない」という名の「関わらない」マネジメントが確実に増えている気がする。
そもそも「やらせる」の反対語を、単純な「やらせない」にしてしまったところに、マネジメントの落とし穴があるように思うのだ。

「お友だち上司」という言葉もあるように、「やらせる」ことに過度に敏感になって、やらせない、責めたり叱ったりしない上司が増えた結果、組織は元気になっているかというと、じつは真逆の状態になっている。職場で働く人の雰囲気はむしろ悪くなっているのではないだろうか。メンタルの問題がますます深刻になっている現実を見ても、それは明らかだろう。

私たちが、チームワークの状態を数値化して見ていくアセスメントツール「ワークコラボレーション・レビュー」を実用化し、WEBでの無料サービスを始めてから、もうすぐ1年になる。これまでに延べ80以上の組織、約6000名の方が利用されているが、そのアンケート結果からも「部下と深く関わらなくなっている」マネジメントの傾向が見て取れる。

集計したデータを見てみると、一番多いのは「ムラ社会型」と呼んでいるものだ。簡単にいうと、本音ではそれぞれに違和感があったり問題を感じたりしていても、お互いがそれを口にすることなく、与えられた仕事をしっかりこなすことに長けている職場組織。これは、ビジネスモデルが安定している組織や異動の少ない100名程度の組織に多く見られる。本音を口にすることで波紋を起こすより、与えられた仕事を適切にこなす人材のほうが評価されやすいからだろう。

進むべき方向が定まらないままに漂流するだけの組織

私が気になっているのは、「ムラ社会型」の亜種に位置づけられる「漂流型」と呼んでいるタイプが増えていることだ。
上司と部下がお互いに本音を言い合わない点は「ムラ社会型」と同じだが、「漂流型」の特徴は、上司の優位性のようなパワーの差が上司・部下間に見られない点にある。簡単にいうと、「ムラ社会型」には少なくとも絶対的な権力者がいて、右向け右の指示・命令によって集団をリードしているが、「漂流型」のほうには「右を向かせる」力がない。言い換えれば、管理職がプレーヤー化していて、集団を導くリーダーシップが明らかに欠落しているのである。

部下は考えないで与えられた仕事をこなすだけ、上司は部下に関わることを避けて必要なリーダーシップを発揮しない。そんな組織は、進むべき方向が定まらないままに漂流するだけである。みんなが部分最適で動き、組織の一体感もない。ただ全員が黙々と日々の仕事をこなすだけの組織になっているとしたら、たとえパワハラなどで問題視される強権タイプの上司がいなくなっても、職場の元気は戻らないだろう。

「やらせない」というのは、当たらずさわらず接すること、つまり「関わらない」ということではない。上司が有無を言わせず指示してやらせるのではなく、その「やらせ方」の中身を高度化するということだ。
上司と部下の間で目的をめぐる対話をする、自分たちのめざす方向について話し合う、部下が主体的に仕事の意味を考え工夫できるように手助けをする、困ったら相談できる関係性をつくる、など。
むしろ「やらせる」だけの時より、いっそう高度なマネジメントの考え方と働きかけ方が必要になるのである。