DNAのほとんどの部分は一生使われることなく眠っている

人間の身体能力は人体の設計図と言われているDNAで決まっているそうです。じゃあ、いくら努力してもダメなの? と思ってしまいますが、実はDNAのうち、実際に使われている部分(スイッチがONになっている遺伝子)は2%程度しかないそうです。

ほとんどの部分は一生使われることなく眠っているということです。

外部環境が変われば動き出すDNA

この眠っている遺伝子も外部環境が変われば動き出すことがあります。
たとえば、大腸菌は砂糖(ブドウ糖)を分解する酵素を生成する遺伝子(A)と乳糖(ラクトース)を分解する酵素を生成する遺伝子(B)の両方をDNAの中に持っています。しかし、砂糖と乳糖の両方が環境に存在するときは、好物である砂糖を食べるために、Aの遺伝子をONにしてBの遺伝子をOFFにしています。ところが、砂糖がなくなって乳糖だけになると、BのスイッチをONにし て乳糖を食べることで生き延びます。

内にあって眠っているものが、環境の変化による危機を感じたら、自分から起き出して行って問題に対する手を打つ。もともとのDNA構造は変わらなくても、外部環境の変化に合わせて大腸菌は自分を変化させて、種を守っているのです。

企業のDNA

眠ったままの企業DNA

企業は大腸菌に比べるとはるかに複雑で高度な組織体ですが、激動の時代を乗り切るために進化しなければならないところは同じです。そのために、組織に内在化されていた社員の拠りどころとなる 判断軸を「企業のDNA」として明文化し、浸透、継承していく動きがあるようです。
しかし、言語化されて社員に理解されている企業DNAは、本当の組織のDNAのうち2%くらいなのかもしれません。生物と同じように、ほとんどは眠ったままで使われていないように思われます。

すなわち、どの企業も過去から継承された大きな潜在能力を持っているのに、それが発動されていないだけなのです。

遺伝子のスイッチをONにするもの

しかし問題は、社員がDNAのめざめに必要な「外部環境の変化」に直面することなく、内向きの安定状態に陥りがちな点にあることです。大競争時代の中で徹底した業務効率化が進み、目先の目標に向けてひたすら仕事をこなすことを求められるようになった社員には、立ち止まって周囲を眺め、異常に気づく余裕も、周りにいる人たちと違和感を口にし合う機会もなくなっています。だから変化に揺らぐことはない、それぞれが言われたことをやって仕事が回っている安定状態なのです。

これは、遺伝子のスイッチをONにする健全な危機感を持てない状態といえるでしょう。

社員一人ひとりが安定状態の殻を破って、外部環境の変化に対し主体的に考え動くようになるためには、組織の中で、本当にいま起こっている事実を本音ベースで共有することが必要です。

危機感をあおるような情報を上から一方的に流されても、我が事として受けるアンテナが立っていなければ気持は揺らぎません。いろんな人との真剣な対話を通して、人や事実に対する興味・関心が生まれ、何でも話し合える安心感の中で「当事者」意識が生まれてはじめて、危機感と向き合うアンテナが立ってくるのです。

よく言われる火事場の馬鹿力もじつは精神論ではなく、危機を打開しようとする当人の必死の意思がスイッチを入れて、遺伝子レベルの莫大な反応によるエネルギーをつくり出していると言われています。同じように、会社の中に当事者が増えて、社員の意思で眠っているDNAを活性化させることができれば、企業も環境変化に対応しうるエネルギーを得ることができるのだと私は思っています。