オフサイトミーティングの活用ポイントについて、3月のコラムで個人と組織をつなぐ3つの結節点をご紹介し、6月号では一つ目のポイント「1)ありたい姿を思い描き、組織の方向性とリンクさせる」について解説しました。
今回は、残り2つのポイント「2)応援してくれるスポンサーに働きかけて、タイアップする」と、「3)思いを共有できる仲間(コアメンバー)をみつけて、一緒に場をつくる」に関連して、庁内横断プロジェクトでのオフサイトミーティング活用についてお伝えいたします。
INDEX
地方創生の課題解決に不可欠な部署間の連携
少子高齢化、人口減少、東京一極集中を克服する地方創生を地方自治体で進めていくことは、コロナ禍であっても取り組み続けなければいけない重要課題です。これは、何か事業を立案すれば解決できるといった単純なものではありません。また、各事業も部署ごとに取り組むだけでは、有効に成果を高めることができないものです。
そこで、事業間や部署間の連携を図るためにしばしば設定されるのが庁内横断プロジェクトです。ただし、庁内を横断する大きなプロジェクトの看板を掲げたからといって、それがうまく機能するとは限りません。多くの場合そこにはいくつかの問題が見受けられます。
庁内横断プロジェクト運営上の問題点
最も大きな問題は、それぞれの事業には主管する部署が存在するため、その他の部署は主管部署が決めたことに協力するといった受身の関わりになってしまうことにあります。理由には、関係部署は事業について詳しくないため深く責任を持ちきれないとか、自部署の本業に忙しくて多くの時間を割くわけにいかない、などがあるでしょう。
そうなると、できるだけ関わりを少なくしておきたいという牽制作用が働き、プロジェクト会議への参加率も低くなるなどして、相互の関係はさらに希薄化していきます。
また、プロジェクトが政策企画や行革など管理部門主導で設置された場合には、事業部門サイドに一方的に押し付けられたというやらされ感が生じている問題もあります。
事業部門には、自分たちが主体的に進めていく自負も責任感ももちろんありますので、管理部門が進捗管理するだけの関わりをしていると、両者が管理する側とされる側の対立関係に陥ってしまいます。
プロジェクト立ち上げ時に期待される場づくり
そこで、このような問題を軽減するために、プロジェクト立ち上げ時に押さえておくとよいポイントが二つあります。
一つは、主管部署の責任者と関係部署のメンバーとの間に斜めの関係を築いて、リーダーシップを発揮しやすくすること。
事業に関係部署の積極的な協力を得るためには、主管部署の責任者が関係部署の所属長に遠慮なく直接指示を出したり、メンバーから直接報告を受けたりすることができる権限を持っていることが大切です。それには主管部署の責任者が、プロジェクトリーダーとしてきちんと位置付けられ、横断プロジェクトがマトリクス組織ほどカッチリした形態でなかったとしても、関係部署のメンバーとフランクに話をしたり、相談したりできる信頼関係を築く基盤づくりが必要になります。
もう一つは、主管部署のメンバーと関係部署のメンバーが、一緒にプロジェクトの目的やめざす姿について対話して、思いを共有すること。
形式的な会議ではなく、メンバーどうしが部署を超えてしっかり双方向で対話して話し込む機会があると、主管部署だけでは見そびれていた視点や見方を取り入れることができます。すると、問題を掘り下げてとらえ直すことができ、何が問題の本質かを理解しやすくなります。
また、将来どんな状態になっていたらよいのかについても、互いの思いを重ね合わせながら幅広い視野で見直すと、新たな発想で方向性を見出すことができるようになってきます。
この話し込む場づくりにオフサイトミーティングの活用がとても有効です。
部署を横断するプロジェクトメンバーが気楽にまじめな話をするオフサイトミーティングを活用することは、斜めの関係にある上司に対しても「2)応援してくれるスポンサーに働きかけて、タイアップする」ことや、相互に「3)思いを共有できる仲間(コアメンバー)をみつけて、一緒に場をつくる」働きかけを促進して、横断プロジェクトにおけるチームの一体感を築きやすくするものです。
コーディネートの留意点と役割
ただし、主管部署と関係部署の間には、通常「メイン」と「サブ」といった固定した関係があることから、当事者たちだけでいきなりフラットな対話はしにくいものでしょう。また、それぞれに専門分野に長けていると、視野を広げて全体最適の目的を俯瞰してとらえたり、そもそも論に掘り下げる問いかけをしにくいことがあるものです。
また、管理部門と事業部門の間もまた、対立関係になる懸念がされるならば、中立的な立場を持つ人が場をコーディネートすることが最初は場を進めやすくします。
そこで、私たちプロセスデザイナーは、対話の場をコーディネートする専門家として支援する役割を担っています。それでも、昨今のように横断プロジェクトが多々形成されるようになれば、この機能を組織内に内製していく必要が出て来ます。
コーディネーターとしての複業人材の活用
この点、富山県で新しい試みがされました。それは、庁内に新しく設けられた複業人材が、私たちと一緒にこの対話の場をコーディネートする役割を担ったのです。
富山県では今年度から、本課での本業を8割、別の課の仕事を2割複業することができる庁内複業制度の運用を始めました。この制度を提案した3人の職員が今はこの制度の運用と検証を行うために人事課に複業していたことから、新しく県庁活性化を目的に立ち上げた3つの庁内横断プロジェクトでオフサイトミーティングを実施する際に、コーディネートを補助する役割として関わることになった次第です。
それが結果としては、主管部署と関係部署、また、管理部門と事業部門の垣根を下げ、相互にフラットな立場で対話し、プロジェクトの存在意義やめざす姿をとらえ直したり、一つのチームとしての行動規範を考え合う場の機能を果たしやすくしていたようでした。
これは、複業制度の本来の機能とは別に派生して生まれた機能だったかもしれません。しかし、行政組織において庁内横断プロジェクトの取組が増えて来るならば、このような場のコーディネーターをどう養成していくのかが新たな課題になって来ると考えられます。
自治体におけるオフサイトミーティングの場の活用とともに、今後はこれらコーディネーターの養成についても、ぜひ検討してみていただければと思います。