日本型の雇用システムの見直し論が高まる一方で、変化に取り残されてきた企業人の働き方。ここでは、特に“シニア予備軍のミドル世代”が、いかに働きがいとキャリア自律を自分のものにするか、そのために会社は何をする必要があるのか、その糸口になるアクションについて考えてみたいと思います。

「言われたことをやりきる」ロイヤリティの高い世代が方向転換の局面で立ち往生している現状

コロナ禍が引き金になり、戦略転換や変革が待ったなしになった日本企業では、ミドル・シニア世代に限らず、社員はほとんど「いきなり変われと言われた」人ばかり、というのが実情ではないかと思います。
なかでも過去の企業成長の功労者であり、滅私奉公的に人生のほとんどを会社に捧げてきたミドル・シニア世代にとって、「与えられた目標を達成する」から「主体的に考えて動く」へと急転回した人材育成方針に対する戸惑いは大きいでしょう。

特に、組織を預かる管理職ならば、部下の育成をはじめ仕事の仕方、働かせ方、職場のコミュニケ―ションやチームづくり、方針展開など、これまで組織をリードしてきたマネジメントのあり方・やり方もまた180度といえるほど変わってきます。
しかし、50代のミドルともなると、人・組織・仕事への影響力が大きい立場だけに、会社からの要求にも猶予はありません。
ミドルは自身のマネジメントのあり方を変えながら、同時に、部下育成と仕事の成果においても「何とかせよ」と結果を求められるプレッシャーにさらされます。

では、どうすればそれが可能なのか、仮にその方法を組織的に学んでいなければ、そして相談する相手もなければ、重圧を抱えて困るばかりで立ち往生してしまうのです。

私がいろいろな会社で組織変革のお手伝いをしてきて、このコロナ禍で実感するのは、今まで40代半ば以降の層に対して、変化を受け入れる準備の手を打ってこなかった会社ほど、ミドル・シニア問題が複雑に影を落とし、大きくのしかかっている、ということです。
これは本人にとっても部下や次の世代にとっても、そして会社にとっても幸せな状態とは言えません。

問題解決の主体は誰か、何をマネジメント転換の糸口にするのか?~ 不安を乗り越え「チーム」で一緒に考える

会社は「環境が変化しているのだから変われ」と言い、ミドル層は「今さら変われと言われても…」とモヤモヤしている。これでは問題解決の主体があいまいなままで当事者不在になってしまいます。

厚生労働省の「令和2年 高年齢者の雇用状況」の調査で60歳定年企業における定年到達者の動向をみると、退職を選択した人は14.4%。じつに約85.5%が継続雇用、という結果になっています。
では、今のシニア予備軍の50代は、「自分はこれから何のために働き、何をもって会社に貢献するのか」を考えたり、あるいは「自分は〇〇のためにこの会社に残ろう」という明確な意思を持って次のステージに向かおうとしているのでしょうか。
残念ながら、多くはそういう機会を持てないままで今に至り、「50代はもう変わらない」と誰もがあきらめているのが実情です。

この膠着状態を打開する糸口は、ミドル自身が“自分ごと”として、自分の働く意味や目的を考え始めることにあります。

A社では、50代の管理職層に対して、昭和バブル期型のマネジメントをVUCA時代型のマネジメントに変えるため、みんなで話し合って考える場を設けました。それに際して、事前に一人ひとりの話を聞いてみてわかったのは、年代的に以下のような不安を抱えているということです。

【50代ミドルの本音】
・自分の経験値やスキルで、この先もやっていけるのだろうか。
・未経験の業務への担当替えや、ラインから外れる話が出てきて、いきなり突き放された感じがする。
・これまで自分なりに会社に貢献してきたのに、突然今のままではダメだと言われてハシゴを外されたような気がする。
・社内で自分の存在価値が薄まりつつあることに虚しさを感じる。

今の50代が育ってきたのは、弱音を吐かず黙って言われたことや決められた範囲のことをやるのが美徳、という時代です。人に相談することも苦手です。
内面では、「どうしていいかわからず困っている」「切り捨てられるのではないかという不安がある」「何かやりたくても、やる術を持たない」などの悩みを抱えて立ち往生しているように見えました。

しかし、その一方で、「会社をもっとこうしていきたい」「本当は時代の変化に合わせて仕事のやり方も変えないといけない」「若手がもっと元気になってほしい」といった思いや問題意識のある人も少なくありません。
不安が解消されれば、じつは変化する可能性が十分あるのに、自分ひとりではどうすればいいかわからない。結果として不作為で終わってしまっている人も多いのではないかと思います。

このような観点からミドルが置かれている状況を整理してみると、
◆「何のために働き、何をもって会社に貢献するのか」「自分はどうありたいか」を今まで問われたことがない
◆それぞれが孤立し、不安を抱えている
◆目の前のことに必死だから周りが見えず、困っているのは自分だけではないことに気づかない
◆「一人」だから変われないとあきらめたり、目を背けている

A社で行なった話し合いの場の目的は、ミドルがこうした状況から抜け出すために「チームで一緒に」考え、自分たちの意思と力で変わっていくことでした。

ポテンシャルの高いミドル層は、体験があれば学びや変化も早い

ミドル層がチームで一緒に変わるための話し合いの場は、以下のようなポイントを意識しています。

(1)本音の対話

・不安や困りごとなど弱みを見せ合うことで安心・安全な関係になる
・同じ立場同士で話をして「自分だけじゃない」と気づき、共感すると気持ちが前向きになる
・困りごとを通して事実・実態が浮き彫りになる

(2)自分はどうありたいかを考える

・自分の働き方と未来を考えることで仕事の意味を見出せる
・自分主体で仕事や組織をとらえる当事者姿勢になれる
・自分は何で会社に貢献できるかを未来思考で考えられる

(3)未来の姿を描いて自分たちで課題を見つける

・考えることの前提が「答えのないこと」「ありたい姿」に変わる
・組織の未来のためにそもそも何が必要かの観点から、既存の枠に縛られない課題を見つけられる
・本当の問題は何か、事業・組織と自分とのつながりに目が向く

(4)課題解決サイクルをマネジメントしてみる

・部下とも本気の対話ができる
・「部下が何を見ているか」の事実・実態に基づく現状認識ができる
・やってみて結果から学び、見直していく試行錯誤のスタイルに慣れる

実際、参加者にはどんな気づきや変化があったのでしょうか。

・考えることを通して、自分たちのあり方が会社の風土に大きく影響していたことに気づき、それを言葉にできるようになった。
・互いに踏み込まないことで安定を保っていた風土が、まず自分たちで話し合う・助け合うことを実行してみたら職場の空気が変化し始めた。あらためて自分たちの影響力の大きさに気づいた。
・小さな課題設定と解決のサイクルを回すために対話の機会を増やしたら、いつの間にか今まで見ないようにしていた緊急度は低いが重要な課題にも取り組むようになった。
・今まで見ないことにしていた根本的な問題を解決できそうな気がする。
・どうせやってもムダだと思っていたが、本当にそうなのかという疑問から自分たちで問いを立て、課題そのものに向き合えるようになった。
・新たな動き方にトライしながら、互いの強みを見つけて生かし合えるようになってきた。

仲間を得て考えることで自信を取り戻したミドルは、今まで見られなかった前向さや活気にあふれています。話し合いの場は、こうした再起動を促す補助輪のようなものなのです。

「会社ぐるみの学び直し」で、変化に強いミドル層を生み出し続ける

近年ではミドルのキャリア形成として、これからの仕事に必要な知識・スキルの習得や、立場を変えて視野や経験を広げる越境学習といった能力を高める手立ても多様にあります。でも、それだけでは不十分な気がします。
50代以上の世代の多くは、言われた範囲のことをやってきた仕事の仕方が常識になっています。まず、そのことに気づき、“自分の生き方”として主体的に変わるための意欲と動機を呼び起こす環境が不可欠なのです。

VUCAと呼ばれる今の時代、過去の延長線上だけで企業の未来を描くことは難しくなりました。過去の常識が通用しなくなり、企業が新たな成長のために脱皮していく局面では、経営がまずマネジメントに新たな価値や指針の軸を通して、ミドル層が持つ考え方や行動を変えていくための支援をすることが大切です。
さらにいえば「今のミドル層に対して」だけではなく「これからミドルになる層に対して」も、早いうちから自分の生き方として仕事を考え、新しいものを受け入れるために学び続ける環境を準備しておく必要があります。

それと同時にミドルもまた次世代メンバーのため、よりよい組織風土にしていくために、自身のマネジメントのあり方や仕事の仕方に責任を持つ覚悟と努力が必要でしょう。

ミドル世代は、ずっと「会社まかせ」だった仕事人生を、いかに自分でつくる人生に置き直していくか。会社は「社員だのみ」にしてきた働きがいや仕事の自分ごと化が進むよう、いかに支援し組織を変えていくか。時代の大きな節目では会社ぐるみで、こうした常識や価値観レベルでのアンラーニングやリスキリングが求められるのだと思います。