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創発とは?
創発とは、部分同士の相互作用によって、部分単独にはない新たな性質が全体として現れることをいいます。
ビジネス文脈では、個人個人の自発的行為が影響し合って組織全体に生まれる協調的な動きや、多様な能力やアイデアが統合されて課題解決や価値創造が促進されるプロセスに関連して、創発という言葉がしばしば登場します。
創発のルーツ
創発のルーツは自然科学で使われる「 emergence(発現)」です。水素と酸素という気体同士が化学反応し、液体の水を生成するのはその典型です。水素と酸素自体には水の性質がありませんが、水という新たな性質が現れるのです。
生物の例では、渡り鳥の群れの飛行パターンが挙げられます。渡り鳥の群れは、先頭を飛ぶ鳥を頂点にしたV字隊列で飛行します。これは、前を飛ぶ鳥の羽ばたきによって後方側面に生じる上昇気流を、後ろの鳥が利用して効率的に飛んでいるためです。先頭を飛ぶ鳥の負担が大きいので交代しながら旅をします。このようにして体力を節約し安全に飛行できるのです。
こうした現象は、個々の鳥が隊列全体の状況を意識したり、リーダーの指示に周りが従ったりして起きるのではなく、隣り合う鳥同士の位置関係と距離感を保つという単純なルールに従うことで成り立っています。個体同士の相互作用により、全体として新たな能力を獲得し、個体では成し得ない大きな成果を実現しているのです。
個体同士や環境との相互作用による創発は、自然界においては(望まなくても)常に起こっており、環境に適合するパターンが自然選択されて残ります。
ビジネスにおける創発
それでは、ビジネスにおける創発はどのように起こっているのでしょうか。書籍「創発型組織モデルの構築」では、環境変化に緩やかに適応する「環境適応型組織」とは区別して、米国シリコンバレーに多く見られる、数多くの創発を起こして新しい秩序を作り上げる組織を「創発型組織」と呼んでいます。
同書を参考に、創発が起こる組織の条件を整理すると次のようになります 。
・開放的で多様な情報や人々が流入している
・ 多様な人々が直接的話し合いを通じてアイデアを生む
・ 人と人の相互作用により組織内に揺らぎが増幅し収束する
・ 過去の成功を否定し、失敗を許容する試行錯誤の風土がある
・ アイデアを素早く実行しフィードバックを得て時代の流れを確かめる
などが挙げられます。このような組織では、古い要素と新しい要素が結合と分離を繰り返したり、新しいアイデアが浮かんでは消えていったりします。その中で共感を得たものが、コミュニケーションと協調によって有力なパターンに成長し、組織を新しい次元に押し上げます。
計画的に生み出すことが難しいのが創発ですが、「変化に適応するために必要だから」と唐突に創発を望むのではなく、創発の条件を整えて小さな創発を日常的に起こしておき、環境変化に適応するパターンを見つけて育てていく方が、自然界に存在する本来の創発や自然選択に近い考え方だといえます。
【参考文献】
『創発型組織モデルの構築』 唐沢昌敬 慶應義塾大学出版会