ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の定義は企業や組織が多様性や包摂性だけでなく、公平性も含めた活動に取り組むことです。
企業や組織には様々な違いや個性を持つ人々が集まっているため、その違いが不均衡にならないように配慮することが必要です。DE&Iに取り組むことで、企業や組織は人材確保やイノベーションにつながり、競争力が高まります。

DE&I(Diversity Equity & Inclusion)の基本概念と重要性

DE&Iの基本概念には、多様性、公平性、包摂性の三つの要素が含まれます。企業や組織はこれらの要素を正しく理解して推進することで、職場環境の改善、従業員満足度の向上、持続可能性を高めることなどが可能です。
DE&Iがめざすのは、全ての人に公平な機会を与えることで、人々が不当な状況に置かれることなく、多様性を受容できる社会を実現することです。
だからこそ、各々の事情を配慮し合いながら、働く環境を整えることが重要です。

D&I(Diversity Equity & Inclusion)とは?

D&Iとは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)を指す概念です。
ダイバーシティ(多様性)は、異なる背景、経験、視点を持つ人材の多様性を活かすことを指します。
そして、インクルージョン(包摂性)は、ありのままの姿を受け入れられ、安心して自分の力を発揮できる環境を作ることを指します。
同質的な企業や組織では、考え方や価値観も同質化するため、変化に対応しづらくなります。そのため、変化の激しい現代においては、むしろ異なる知識やスキル、考え方を基に対話することで、変化に対応しやすい組織風土をつくることができます。

エクイティ(公平性)とは?

エクイティ(公平性)とは、違いが不均衡にならないように、個々のニーズや状況に応じた支援を提供することを指します。
エクイティは日本語で公平性などと訳されますが、平等とは少し意味が異なります。平等とは個々の状況を考慮せず、同じものを提供して、評価することです。
一方、公平とは一人一人の状況に合わせたものを用意して、誰でも活躍できる機会をつくることです。
平等だけでなく、公平性が注目されている背景として、すでにある不均衡を是正しなければ、本当の意味で一人一人が活躍することが難しいためです。確かに同じものを提供することは平等ですが、そもそも個々の状況が違う人々に同じものを提供しても、全ての人が活用できるとは限りません。それどころか、平等なものを提供していることで、すでにある不均衡の助長につながってしまう可能性もあります。
そのため、平等だけでなく、公平性を維持することにも考慮する必要があります。

DE&IとD&Iの違い

DE&I(DiversityEquity&Inclusion)とD&I(Diversity&Inclusion)の主な違いは、「エクイティ(公平性)」の要素を含むかどうかです。
前述したように公平性は、個々のニーズや状況に応じた機会を提供することです。ダイバーシティを進め、人々を多様性として受け入れる過程で、いくら平等な機会を提供しても、全ての人のスタートラインを揃えなければ、自身の力を発揮することは困難です。
こうした不均衡を是正するため、エクイティー(公平性)の概念が加わり、DE&IはD&Iを進めた概念として、注目されています。

企業におけるDE&Iの推進理由とメリット

DE&Iの推進は、次のように企業に多くのメリットをもたらします。
1つ目は従業員に公平な機会を提供することで、優秀な人材の確保・定着や従業員満足度の向上につながります。
2つ目は企業が多様な考えや経験を取り入れることで、生産性向上、新しいビジネスチャンスの発見やイノベーションにつながります。
3つ目は現在のように市場がグローバル化する中で、異なる文化や価値観を理解することで、企業の競争力の向上につながります。

なぜDE&Iが必要か

なぜDE&Iが企業や組織にとって必要かといえば、労働人口の減少、多様な顧客ニーズの多様化、外部環境の急激な変化などに対応するためです。
1つ目は人材の確保・定着につなげるためです。
少子高齢化に伴い人手不足が加速しているため、人材を確保するためには、多様な働き方を認めることが必要です。
例えば、多くの企業が女性に加えて、高齢者・障がい者・外国籍の人材を積極的に登用し、パートタイムやリモートワークなど多様な働き方も取り入れています。これにより、人材確保の選択肢が広がるだけでなく、離職率の低下や職場のエンゲージメント向上といった効果も期待できます。
2つ目は多様な発想を得て、イノベーションにつなげるためです。
多様な人材が意見を出し合うことで、社内外の課題に対する新しいアイデアが生まれやすくなります。そのアイデアを基に顧客のニーズに柔軟に対応することで、市場からの評価が高まり、成果も期待できます。
3つ目はグローバリゼーションへ対応するためです。
外部環境の急激な変化に直面するなかで、海外に販売先を拡げる企業が増えています。そのため、多様な人材の考えを取り入れることができれば、海外の商習慣などを把握することができます。その結果、国内市場との違いが理解できるだけでなく、海外からの認知度や評価の向上も期待できます。

イノベーションとDE&I

DE&Iを推進することで、企業の競争力が高まり、イノベーションも期待できます。
2024年の経済産業省のダイバーシティ経営の推進についての資料によれば、「組織の多様性を推進することで期待される効果の一例として、①プロダクト・イノベーション、②プロセス・イノベーション、③外部評価の向上、④職場内の効果」を挙げています。
「プロダクトイノベーションとは、多様な人材による製品やサービスの開発や改善のことです。多様な人々の新たな視点や発想が加わることで、これまでになかった商品やサービスが開発・改善できるようになります。これにより、新たな顧客の獲得につながり、売上や利益が向上します。」
次に「プロセスイノベーションとは、多様な人材の発想を取り入れ、仕事の進め方を見直して、生産性などを向上させることを指します。プロセスを改善することで、ムリ・ムダ・ムラといった工程削減や、製造方法の改良により、売上や利益が向上します。」と述べています。(※1)

心理的安全性とその効果

心理的安全性のある職場とは、従業員が自分の意見や考えを安心して表現できる職場環境のことを指します。
職場内に多様な考えや価値観を持った従業員がいる場合、安心して自分の意見を表現するためには職場内の対話が必要です。対話の中では、異なる意見であったとしても、自身が尊重されていると認識することが大切です。これにより、従業員のストレスが低下し、メンタルヘルスにも良い影響を与えます。

DE&Iの具体的な取り組みと事例

DE&Iの具体的な取り組みは、企業の規模や業種によって異なりますが、共通しているのは多様性を尊重し、公平で、包摂的な職場環境を作ることです。この環境を実現するためにはハード面とソフト面の両面から考えることが必要です。
ハード面として、多様な人材が活躍できる評価制度の整備が効果的です。例えば、管理職でいえば、DE&Iを意識し、多様な部下や後輩を育成できているかを評価します。
一方、ソフト面として、DE&Iの理解を深めるマネジメント研修や、職場内の対話が効果的です。

DE&I推進の効果

DE&Iを推進することで、従業員が自身を尊重されていると感じることで、職場のエンゲージメントが高まり、優秀な人材の採用や離職率低下が見込めます。
また、多様な視点と知識がもたらされ、問題解決能力が向上し、生産性や顧客満足度の向上が見込めます。
さらに、企業が公平性を重視することで、組織の信頼性が高まり、ブランドイメージ向上や持続可能な成長が見込めます。

企業の取り組み事例

DE&Iを推進している企業事例として、今回TISインテックグループ、西日本旅客鉄道株式会社、中外製薬株式会社の3社の取り組みをご紹介します。
1社目のTISインテックグループのホームページによれば、TISインテックグループは「経営資源としての人や組織の良質化およびグループ経営方針『OUR PHILOSOPHY』に基づく企業文化形成に向け、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。」
TISインテックグループの主な取り組みとして、「フレックス勤務、テレワーク、裁量労働制等の導入により、働き方改革を推進、65歳定年でシニア社員の活躍促進、1on1面談や360度評価により、多様な人材を活かせる人事マネジメントの高度化を支援、『人事本部マニフェスト』を策定・社内に公表するとともに、社内の各組織の自主的取組を促進など『多様な人材活躍」、『健康経営』、『働き方改革』を主軸にダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進しています。」(※2)
2社目の西日本旅客鉄道株式会社のホームページによれば、「西日本旅客鉄道株式会社は社員が自身の描くキャリアを実現できる環境を整えるため、結婚や育児をはじめとした様々なライフイベントとキャリアを両立できる環境づくりや女性特有の健康課題へのサポート」を行っています。
西日本旅客鉄道株式会社の主な取り組みとして、「①配偶者等の転勤への同行・休職制度の新設、②女性特有の健康課題に対する支援、③フレックスタイム制における始終業時刻の制限の撤廃」などを行っています。(※3)
3社目の中外製薬株式会社のホームページによれば、「中外製薬株式会社は社会に価値を発揮しながら成長を果たしていく上で、人財こそが最大の資産ととらえており、人財マネジメントを重要な経営テーマとして考えています。適所適財の実現に向けたタレントマネジメントの強化、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進による多様な人財の確保、異なる価値観やアイデアの尊重、そして社員それぞれのワークライフシナジーを実現する就業環境の整備を通じ、社員が役割に応じて能力を最大限に発揮し、お互いに支え合いながら連続的にイノベーションを生み出す組織文化の定着をめざしています。」と記載されています。(※4)

働き方の多様化とDE&I

企業や組織は従業員の多様な働き方に対応するため、リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務など柔軟な働き方を検討することが必要です。
もし、画一的な勤務制度であれば、同じような人材しか採用・育成できなくなる可能性が高まります。
もちろん、柔軟な働き方が難しい業種や仕事内容もあります。ただ、その場合でも、その人に適した働き方はできないかと検討したり、本人はどのような働き方を希望しているのかヒアリングするなど、できる限り多様な働き方に対応するような制度や環境づくりが求められます。

DE&I推進のための戦略

企業がDE&Iを推進するためには、具体的な戦略が必要です。
DE&Iの戦略を策定し、その実行にあたっては、経営トップがDE&Iは経営戦略上重要だと宣言し、業績に関連する指標と紐づけて発信・浸透することが有効です。データ等事実実態に基づいていなければ、従業員の「DE&Iは自社にとって、どのような意味や効果があるのか」という疑問を解消することができません。

エクイティの視点を取り入れる方法

エクイティの視点を取り入れる方法として、多様な働き方をサポートする制度の整備や研修機会の提供が必要です。
例えば、DE&Iの取り組みとして、女性管理職の登用、仕事と家庭の両立を支援する制度の整備、障がい者や高齢者の雇用の促進、誰もが安心して働けるオフィスづくりなどがあります。
女性活躍推進というテーマでいえば、女性の採用比率や人数、女性管理職の比率や人数などの指標があります。政府は東証プライム市場の上場企業について、2030年までに女性役員の比率を30%以上とする目標を掲げています。
また、女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主であれば、厚生労働大臣の認定(えるぼし認定)を受けることができます。

ダイバーシティを推進するデータとアンケート

DE&Iを推進するためには、データ収集とアンケートの実施が効果的です。
まず、多様性に関する事実実態を把握するため、従業員の属性データを収集します。これには性別、年齢、職務経験などのデータが含まれます。
次に、定期的に従業員にアンケートを実施し、職場環境などに関する満足度を把握します。
データおよびアンケートによって現状を把握した後は、効果を見える化します。その際はデータを基に事実実態を把握しているだけでなく、DE&Iの推進を阻害している原因を特定することも欠かせません。具体的な施策を実施している場合はその効果も測定します。
日常業務が忙しい場合、このようなデータ収集やアンケートの実施を外部のコンサルタントなどに依頼することも効率的ですが、その場合でも社内で事実実態を把握しておくことが前提です。

成功のためのポイント

DE&I推進を成功させるためにはいくつかのポイントがあります。
1つ目は経営層がリーダーシップを発揮することです。経営層がDE&Iの重要性を理解し、積極的に支援するためには、経営層の評価項目にDE&Iの項目を反映することが有効です。
2つ目は社員が活躍できるように人事制度を見直すことです。その際は意図や目的を言語化して共有すること、従業員の意見を取り入れること、現状の制度が特定の社員にとって不利なものになっていないかなどを見直すことなどに取り組みます。
3つ目は多様な社員が自分のキャリアを主体的に考える場を作ることです。具体的には研修、上司との面談、対話の場などを設けることなどを通じて、キャリアを考えていきます。
2017年の経済産業省のダイバーシティ2.0 行動ガイドラインによれば、DE&Iの推進に向けて企業がとるべきアクションを次の4項目に整理しています。
「 ・中長期的・継続的な実施と、経営陣によるコミットメント
・組織経営上の様々な取組と連動した「全社的」な実行と「体制」の整備
・企業の経営改革を促す外部ステークホルダーとの関わり(対話・開示等)
・女性活躍の推進とともに、国籍・年齢・キャリア等、様々な多様性の確保」(※4)

DE&Iの課題と未来展望

DE&Iは一朝一夕で成果が出るものではなく、いくつもの課題があります。そのため、企業や組織は適切な対策を講じるだけでなく、それを継続させることが必要です。例えば、管理職に対して、リーダーシップに関するセミナーや研修を積極的に受講させ、管理職の能力や意欲を高め続けることなどが必要です。
従業員が働きやすさと働きがいを感じ、企業や組織が成長や持続可能性を高めるためには、従業員のウェルビーイングの考えがますます重要になっていきます。

現在の課題

DE&Iの推進には、いくつかの課題があります。
今回お伝えしたいのは組織風土に関する課題です。企業や組織の中には特定の思考・行動パターンが定着しており、これを改革するためには時間と労力が必要です。
多様性を妨げる原因の1つとして、アンコンシャスバイアスがあります。アンコンシャスバイアスとは人が無意識にステレオタイプで物事を考え、偏見を持つことです。
例えば、多様性と聞くと、女性や高齢者、障がい者や外国人といった方々のイメージがあると思いますが、企業や組織の中で働いている人々は他にもいます。その人々の能力をもっと活かせるはずなのに、何かの原因によって力が発揮できていない場合は、その方々への支援も必要です。
DE&Iを推進するためには、経営者がビジョンを打ち出し、現場を巻き込みながら、自社にとってのDE&Iとは何かを考えます。そして、経営層が率先して、毎月会議などでDE&Iの進捗状況を共有し、取り組みを継続している姿勢を社内外に発信します。これにより、社内外の人々の納得感が高まります。

未来の方向性とサステナビリティ

DE&Iの未来の方向性は、より持続可能性(サステナビリティ)のある組織を作ることがカギです。
現在ではDE&Iを推進することで、生産性向上などの効果が期待できるため、多くのサポートが注目されています。
例えば、データ分析やAIなどのテクノロジーの駆使、持続可能なビジネスモデルの構築、ダイバーシティに適した戦略の導入、職場の人員構成や仕事の割り振り、管理職のリーダーシップの教育、職場の組織風土改革、人事制度の見直しなどがあります。
また、大事な点として、DE&Iを進めることで、意図した効果が生じているかだけでなく、その効果が意図したやり方によって生じているか、意図しなかった影響が生じていないかも併せて確認することが必要です。
例えば、女性活躍を推進する場合、表面的な数字だけを追っていないか、男性社員のモチベーションが低下していないかといった点を確認することが必要です。
さらに現在ではDE&Iに加え、所属、一体感、帰属意識のことを指す「ビロンギング」が注目されています。ビロンギングを含んだ概念は「DEIB」と呼ばれています。ビロンギングとは会社に染まるのではなく、自分の個性を生かしたまま、心地よく企業や組織に関わり、居場所があると感じられる状態です。企業や組織が重視すべき概念だという意識が広がり始めています。
以上のように、DE&Iを推進するためには、企業や組織の中のプロセスを見直しながら、自社や自組織にとって有効なやり方を試行錯誤していくことが必要です。

【引用書籍・WEBサイト】
(1) 経済産業省経済社会政策室.(2024).ダイバーシティ経営の推進について.
(2) TIS、令和元年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」を受賞|TISインテックグループ
(3) ダイバーシティ推進に向けた環境づくりについて|西日本旅客鉄道株式会社
(4) 人財・ダイバーシティ&インクルージョン|中外製薬株式会社
(5) 経済産業省.(2017).ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン.