タレントマネジメントとは?

タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりの才能やスキルを最大限に活用し、企業全体の業績を向上させるための戦略的手法です。「組織レベルの成果の向上を目的として、戦略や目標の達成にとって重要度の高い職務に対する適切な人材の定常的な配置を可能にするための人事管理の仕組みとその実践」と定義されています。(※1)
現代のビジネス環境では、優れた人材の確保と育成が競争力の鍵となります。そこでタレントマネジメントが重要になるのです。これにより、社員のモチベーションを高めるとともに、適材適所の配置が可能となります。人材育成計画や人事システムの導入を通じて、組織全体が一丸となって目標を達成するために不可欠な要素です。

タレントマネジメントの目的と背景

タレントマネジメントの重要性が広く認識されるようになったのは、1997年にコンサルティング会社のマッキンゼーが提唱した「ウォー・フォー・タレント(war for talent)」がきっかけと言われています。この言葉には、優れた人材(タレント)の獲得と育成に成功した企業こそがビジネスを制するというメッセージが込められています。
当初は、グローバル企業を中心に、グローバル人事に関する問題意識からタレントマネジメントを実践するケースが多くありましたが、国内で事業を展開する企業にとっても、タレントマネジメントの必要性が認識されるようになっています。
その背景には、労働市場の変化と企業の競争激化が挙げられます。人材流動性の高まりや生産人口の減少などにより人材の確保が難しい現代では、既存の人材の能力開発が重要課題となっています。また、働き方や価値観の多様化によって、社員一人ひとりの状況に合わせた対応が求められています。これにより、企業は内部のリソースを最大限に活用し、外部からの人材調達に依存しない強固な組織を構築することが求められます。結果として、タレントマネジメントは企業の持続可能な成長と安定した業績に直結する重要な要素となっています。

また、タレントマネジメントは、企業の経営戦略と密接に関連しています。企業は市場での競争力を維持・向上させるために、戦略的に人材を配置し、育成することが求められます。タレントマネジメントを導入することで、組織全体の目標と従業員の個別目標が一致し、効率的なパフォーマンスが実現します。これにより、企業は持続的な成長を遂げることができ、市場での競争優位性を確保することが可能となります。

タレントマネジメントの導入メリットと効果

タレントマネジメントの導入は、企業の人事担当者や経営層にとって多くのメリットをもたらします。例えば、以下のようなものがあげられます。

①社員のスキルセットを適切に評価し、適材適所での配置が可能になる。
②社員が個々のキャリアパスを明確に描きやすくなる。
③スキルアップや能力開発の機会が増えることで、自己成長を実感できる場が提供できる。
④生産性の向上や社員のモチベーションの増加が期待できる。
⑤明確な評価指標を設けることで、成果を可視化しやすくなる。
⑥社員の成長をサポートすることで、離職率の低下や信頼関係の構築が期待できる。
⑦企業のブランド力向上にも寄与し、優秀な人材の採用が容易になる。
⑧企業全体のパフォーマンス向上と持続的な成長を促進する。

タレントマネジメントの実践方法

ここでは、タレントマネジメントの効果的な導入方法について、4つのステップをご紹介します。

① タレントマネジメント方針の策定:まず経営層の明確な方針設定が重要です。企業全体の戦略と整合性を持たせることで、人材の育成計画が明確になります。戦略上キーとなる人材の要件はなにか、将来の人財ニーズの予測はどうなるのか、評価手法や基準はどうするのか、などです。
② 現状の把握:次に、現状の整理が必要になります。①で策定した方針に照らし合わせて、現状がどのようになっているのか、人材のミスマッチは起こっていないのか、などを確認していきます。
③ タレントマネジメントシステムの導入;具体的な施策の実践方法として、タレントマネジメントシステム(TMS)を活用することが有効です。これにより、個々の社員のスキルやパフォーマンスをデータで可視化し、的確な評価やフィードバックが可能となります。評価方法は継続的なパフォーマンスレビューを導入し、成果だけでなくプロセスも評価対象とすることで、社員のモチベーション向上と継続的な育成を促進します。
④ 振り返り:施策を実践した結果を評価し、更なる効果的な運用に向けて各フェーズにフィードバックをかけていきます。キー人材の充足率やタレントマネジメントに関する投資対効果などの指標を設けて効果を測定するケースもあります。

タレントマネジメントシステムとは

タレントマネジメントシステムとは、企業が社員の育成、評価、配置などを一元管理するためのツールです。このシステムを導入することで、経営層と人事担当者は社員のスキルやパフォーマンスをリアルタイムで把握でき、効果的な人材育成と業績向上を図ることが可能です。
また、タレントマネジメントシステムを活用することで、適材適所の配属が実現し、社員のモチベーション向上にも寄与します。効果的な導入方法と実践には、現状の業務プロセスを細かく分析し、自社に最適なシステムを選択することが重要です。近年は、HRテクノロジーの進化により、従業員のパフォーマンスデータやスキルセット、キャリア志向などの情報を収集・分析することが容易になりました。これにより、従業員の適性や成長ポテンシャルを把握し、最適な配置や育成プランを立てることができます。さらに、定量的なデータに基づく判断は、経営層の意思決定を支援し、組織全体の戦略的な人材マネジメントの実現を後押しします。

主な機能と選び方

タレントマネジメントシステムには、パフォーマンス評価、スキル管理、研修管理、従業員エンゲージメントのモニタリングなど多岐にわたる機能があります。選び方のポイントとして、自社のニーズに合った機能が備わっているかを確認することが非常に重要です。また、使いやすさやカスタマイズ性、他のシステムとの連携性なども無視できない要素です。さらに、サポート体制やコスト面も考慮し、導入後の運用がスムーズに行えるかを検討することが求められます。

タレントマネジメントの課題と解決策

タレントマネジメントの導入に際してよくある課題として、「人材データの一元管理が難しい」、「評価基準の透明性が不足している」、「従業員のモチベーション管理が不十分」が挙げられます。これらの課題に対する解決策は、まず効果的なタレントマネジメントシステムを導入することです。これにより、人材データを一元管理しやすくなり、評価基準の透明性も高まります。また、従業員のモチベーションを適切に管理するためには、定期的なフィードバックとスキルアップの機会を提供することが重要です。

また、導入計画が不十分であったり、従業員のニーズを無視したケースがあります。例えば、ある企業では、急速な導入により従業員の反発を招き、かえってモチベーションが低下しました。注意点として、導入の際には従業員の意見を十分に反映し、段階的な実施を心がけることが重要です。また、継続的なフォローアップと評価を行い、柔軟に対応することで、失敗を避けることができます。

また、日本企業特有の課題としては、「年功序列の文化」、「終身雇用制度」、「キャリア開発のサポート不足」が挙げられます。年功序列や終身雇用は、従業員の成長と柔軟な人材配置を妨げる要因となり得ます。対策としては、実力主義を基本とした評価制度の導入が有効です。また、キャリア開発のサポート不足を解消するために、メンター制度やキャリアパスの明確化、スキルアッププログラムの充実が求められます。これにより、従業員の成長意欲と生産性を向上させることが可能です。

【参考文献】

柿沼英樹、土屋裕介「タレントマネジメント入門」(2020年)(※1)