メンター制度は、新入社員や若手社員に対し、仕事のやり方の指導やメンタル面のサポートをする人材育成の方法です。先輩社員が新入社員(主に入社1~3年目程度)の相談にのることで、新入社員は職場に早期に馴染むことができます。メンター制度がある会社は社内のコミュニケーションが活性化し、離職率が低下します。その結果、企業の生産性の向上につながります。
これからメンター制度をわかりやすく解説します。

メンター制度の基本を理解する

メンター制度とはメンティー(指導を受ける対象)に対し、メンター(指導者)が業務スキルの向上だけでなく、メンタル面も支援する制度のことです。
新入社員を主な対象として定期的な面談を開催し、不安や悩みを解消し、キャリア形成に関する相談にも対応することが特徴です。面談の際はメンターが自身の成功例だけでなく、失敗例も伝えることで、説得力が高まります。

メンター制度の定義と意味

メンター制度の定義は、職場でメンターがメンティーをサポートする仕組みのことです。
メンター制度の意味は、メンターが個別に指導し、メンティーの成長を促進することです。
メンターとは「よき助言者」を意味します。ギリシャの叙事詩オデュッセイアに登場する賢者「メントル」が語源と言われています。

メンター制度を導入する企業が増えた背景として、厚生労働省が「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を公開したことが挙げられます。
このマニュアルはメンター制度導入の手順を紹介し、ワークシートの見本なども掲載しています。そのため、このマニュアルを自社の状況に合わせてカスタマイズしながら、導入を進めます。

メンター制度とOJTとの違い

メンター制度とOJT(On-the-JobTraining)の共通点は、どちらも新入社員や若手社員を育成します。その違いは、目的とアプローチにあります。
OJTは学校のように業務スキルの向上を目指し、実務に合わせて指導することです。
OJTの目的は若手社員の早期戦力化であり、同じ部署の先輩や上司が指導にあたります。そのため、若手社員が気を使って疑問や悩みを相談しづらいという問題が生じやすくなります。
一方、メンター制度はメンターとメンティーがフラットで率直なコミュニケーションをとり、メンタル面の支援をします。
メンター制度の目的は若手社員の定着や成長などであり、部署の違う先輩が担当することが多いです。そのため、上司には相談しづらいことやプライベートなテーマを相談しやすくなります。

メンター制度とエルダー制度の違い

メンター制度とエルダー制度の共通点は、先輩が新入社員や若手社員を指導することです。その違いは、目的や対象にあります。
エルダー制度は、新入社員に業務に関する具体的な知識やスキルを教え、早期に戦力化することが目的です。指導役となる先輩は同じ部署から選ばれ、対象は新入社員・若手社員に限定しているケースが多いです。
一方、メンター制度はメンタル面のサポートが目的です。そのため、新入社員の悩みや不安を解消し、キャリア形成もサポートします。指導役となる先輩は他部署の社員が担当し、対象は全社員となるケースが多いです。

メンター制度を導入する目的

メンター制度を導入する主な目的は、社員の能力や意欲の向上とともに、企業の成長を促すことです。
先輩が新入社員や若手社員の不安や疑問を解消することで、業務を早期に理解して、コミュニケーション力を養うことができます。
他にメンター制度を導入する目的として、新入社員の定着をはかることや、社員に権限移譲することなどが挙げられます。

社員の育成と課題改善

メンター制度は社員を育成し、成長を促す手段として有効です。
この制度は社員のスキルの向上だけでなく、メンタル面でのサポートも含まれるため、幅広い課題に対応することができます。特に新入社員はスキル不足や人間関係に関する不安を抱くことが多いため、メンターとの定期的な面談や指導が必要です。
メンター制度によって、社員が成長し、自信を持って業務を改善することで、企業全体の成果にもつながります。

離職率低下を目指す制度

企業にとって離職率は重要な問題です。最近では人材確保が難しくなったため、離職率を抑えることで企業の競争力を維持します。
新入社員がメンターからサポートを受けることで、不安や悩みを早期に解消しやすくなり、仕事のモチベーションが維持できます。
メンター制度は社員の定着率を維持・向上させる有効な手段といえます。

企業全体の人材強化

メンター制度は、単なる個人の育成に留まらず、企業全体の人材強化に効果をもたらします。
メンターがメンティーを指導することにより、専門知識やノウハウが伝承され、企業全体の業務の質や生産性が向上します。
メンターは自分の経験だけで指導するのではなく、会社が目指している方向性を理解し、それに適した指導をする必要があります。
また、メンター制度をきっかけに他部署とコミュニケーションをとることで、新しいアイデアの創出などにつながります。

相談しやすい環境づくり

メンター制度は、社員が安心して相談できる環境を整えることが必要です。特に新入社員や若手社員は業務上の悩みや不安を抱えやすいため、企業は社員が本音を語れる雰囲気を作り、その悩みにアドバイスできるような体制をつくることが必要です。
メンターが定期的に相談にのることで、社員の心理的な負担を軽減します。その結果、問題が発生した際にも素早く対処しやすくなります。

メンター制度のメリットとデメリット

メンター制度には様々なメリットとデメリットがあります。
メリットは社員の育成機会が増えることでメンティーの成長を促し、メンター自身の成長にもつながります。また、企業内のコミュニケーションが活性化し、新入社員の離職率が低下します。
一方、デメリットは双方の関係が良好ではない場合、面談や指導が逆効果となるリスクがあります。
企業はメリットとデメリットを理解した上で、自社に合った制度を設計することが必要です。

メンター制度のメリット

メンター制度のメリットとして、メンターがメンティーにアドバイスをすることで、スキルが向上するだけでなく、モチベーションも向上します。
また、部署内外との情報共有が円滑になり、職場内のチームワークが向上します。
さらに企業文化や経営理念などが浸透することで、エンゲージメントが高まります。
その結果、企業全体の生産性の向上につながります。

メンターのメリット

メンターのメリットは、メンター自身も成長を実感することです。
メンターはメンティーの指導を通じて、今まで以上に学び、周囲と関わることで、問題解決力やマネジメント力が鍛えられます。
また、自身の知識やスキルを棚卸し、キャリアを一緒に考えることで、自身のキャリアについて考えるきっかけにもなります。
メンター制度により、メンターはリーダーシップスキルが向上し、将来的な管理職やリーダーとしての役割を疑似体験することができます。

メンティーのメリット

メンティーのメリットは、メンタル面の支えを得ることです。
メンターに公私の悩みを相談できることで、働く上での心理的安全性が高まります。
また、メンターからアドバイスを受け、多角的に物事を考えることで、課題解決力や発想力が向上します。
さらにメンターが人間関係の構築をサポートすることで、職場に早く馴染み、離職を防止する効果が期待できます。

企業全体のメリット

メンター制度を導入することで、企業内の人材の成長が促進され、生産性や競争力が向上します。
また、職場内のコミュニケーションが活発化すれば、業務の効率化や離職率の低下につながります。これにより、新入社員の定着率や生産性が向上するため、採用や研修にかかるコストが低減します。

メンター制度のデメリット

メンター制度にはデメリットもあります。
メンターは通常業務以外にメンター業務が加わるため、負担が増えます。
また、メンターとメンティーとのマッチングが良くない場合、双方がストレスを感じる場合があります。そのため、企業は双方の性格や価値観を考慮すると共に、上手くいっていない場合は早期の介入やメンターの変更を検討する必要があります。
さらにメンターの指導力にバラつきがあれば、効果が高まらないだけでなく、自部署外に情報が漏洩するリスクなどが発生します。

メンターのデメリット

メンターを担う場合、いくつかのデメリットが考えられます。
1つ目はメンターはメンティーとの定期的な面談だけでなく、記録の蓄積や研修参加などが必要のため、業務全体の負担が増えます。
2つ目はメンティーと上手くコミュニケーションがとれない場合や、メンターの知識やスキルが低い場合、指導の効果が高まりません。そのような場合は、双方の相性を再検討するこ必要があります。
3つ目はメンター業務が人事評価につながらない場合、メンターのモチベーションが低下します。
これらのデメリットを防ぐためには、企業はメンターをサポートする体制を整えることが重要です。

メンティーのデメリット

メンティーのデメリットは、メンターとの相性により、効果が左右されることです。
メンティーはメンターとメンタル面も話し合うため、双方の関係が良好ではない場合、コミュニケーションが不足するだけでなく、面談や指導がかえってストレスを引き起こす原因になります。
また、メンターの能力や意欲が低ければ、適切なサポートを受けることができません。その結果、メンティーは成長を実感できないだけでなく、退職につながる可能性すらあります。
そのため、双方に定期的なフィードバックを行い、期待や目標などのギャップを埋めておくことが必要です。

企業運用上のデメリット

メンター制度を導入する際は、コストや時間の負担を管理することが必要です。
特にメンターが忙しく、面談や指導に時間を割けない場合、期待した成果を得ることが難しくなります。そのため、メンターとなる人の上司ともよく話し、部署内での業務量調整などのフォローが必要です。

また、双方のマッチングが良好ではない場合、モチベーションの低下やコミュニケーション不全に陥ります。そのため、企業は進捗をヒアリングし、定期的にマッチングを見直すことが必要です。
さらにメンターを対象にした研修を開催し、メンター任せの属人的な内容にならないように注意します。

メンター制度導入の流れと運用方法

メンター制度を円滑に進めるためには、適切な流れと運用方法の設定が不可欠です。
初期段階では経営トップが制度導入の必要性や期待する効果を理解することが重要です。そして、社内にメンター制度の目的や目標を共有し、その後円滑に運用するための手順や役割分担を伝えます。
また、メンター制度導入後も定期的な見直しと改善をすることで、運用の質を高めていきます。

メンターとメンティーの選定とマッチング

メンター制度の成功は、メンターとメンティーとの相性に影響を受けます。
まず、候補となるメンターは、豊富な実務経験を持つ社員を選びます。選出する際は指導力や相談への対応力に加えて、相手を尊重する姿勢を持ち、良好なコミュニケーションを築けるか人かどうかを見極めます。

また、メンティーの現在の保有スキルや成長目標、個々のニーズを把握することも欠かせません。
メンティー側からは、一度マッチングすると変更をお願いしづらいものです。メンティーからメンターの変更をお願いすると、会社からメンターがネガティブな評価を受けるのではないか、メンターとの人間関係が悪化するのではないかと考えてしまいます。
さらにメンタリングの質を高めるため、メンター制度導入前に教育の機会を作るだけでなく、定期的なフォローを行います。

事前研修と必要な準備

メンター制度の効果を高めるためには、事前研修の実施が必要です。
メンターはメンターとしての役割や責任、メンタリングの具体的な方法を学ぶ研修が有効です。
メンターを担当する人は、メンティーの成長に関心を持ち、成長を喜び、良好な人間関係を築ける人がふさわしいといえます。そのため、メンターにはメンティーのニーズを引き出すスキルを学ぶだけでなく、メンティーの感情を読み取る傾聴スキルを学ぶことが必要です。

一方、メンティーには素直で謙虚な気持ちを持ち、積極的に成長しようという心構えが大切です。そのため、メンターと良好な関係を築く言動について理解を深める研修が必要です。
事前研修を通じて、お互いの立場を理解し合い、必要な準備を整えておくことで、成長し合う関係が実現します。

メンタリング実施と振り返り

メンタリングを実施する際には、定期的な面談の機会を設けておきます。
面談により、メンティーの抱える不安や課題をタイムリーに把握し、適切なアドバイスを受けることができます。メンティーが受けた指導が日常の業務に活かされることで、具体的な成果が期待できます。

また、メンタリングの効果を継続的するために、メンター制度自体を定期的に振り返る機会も必要です。振り返りの場では、メンタリングのプロセスがどのくらい有効であったのかを確認し、良かった点や課題を整理します。
メンタリング終了後には双方からヒアリングし、メンタリングの効果と感想を検証します。

制度運用の改善と課題整理

メンター制度をより良いものにするためには、制度がどのように運用されているのか定期的に振り返る機会が必要です。
振り返りの場では、制度運用の結果を基に良かった点や課題を整理します。
運用開始後一定期間が経過した際、運用開始時に設定した目標に対する結果を把握・検証します。そして、課題が見つかれば、その課題に対して改善策を策定し、実行します。

メンター制度運用の注意点

メンター制度を効果的に運用するためには、いくつかの注意点に留意する必要があります。
まず、メンター制度をサポートする機関として、事務局が必要です。事務局は通常総務や人事、研修担当者などが担います。事務局はメンタリングが機能するように、メンターとメンティーに介入したり、個別に相談にのります。

また、メンター制度を行っていることが他の社員にも分かるような仕組みを構築します。具体的には事務局が社内報等を用いて、社内にメンター制度開始を告知し、目的・意義・価値を伝達していきます。他にはメンターとメンティーの直属の上長への事前連絡し、承認をもらっておきます。

メンターとメンティーのミスマッチを防ぐ

メンターとメンティーの関係が良好でなければ、制度の効果が高まらないため、初期段階のマッチングは慎重に行います。
メンターを選ぶ際は過去の人物像だけで判断するのではなく、選定基準を明確にします。
また、メンターとメンティーの性格や業務に対する姿勢が似ている組み合わせを検討するだけでなく、異なる組み合わせを検討することも効果的です。ただ、その際はお互いに異なる価値観を受容する心構えや外部者の介入が不可欠です。

一定期間経過後、定期的にフィードバックを確認し、初期の条件設定やマッチングのプロセスが適切であったか評価します。そして、必要があれば、マッチングの見直しやプロセスを改善します。

効果的なフォローアップの方法

メンター制度でのフォローアップは、メンティーの成長を促すために重要です。
面談後のフォローアップにより、若手社員や新入社員が抱える疑問や不安をタイムリーに把握することができます。そして、その疑問や不安を解消するために具体的なアクションプランを策定し、メンタリングの質を高めていきます。

また、企業側はメンターとメンティーに対して、個別にフォローします。例えば、個別面談で定期的に両者の現状や成果などを把握し、必要に応じたサポートを行います。
特にメンターはメンティーから相談を受ける立場であるため、自ら相談しづらいといえます。そのため、企業は個別フォローや活動報告書の共有などにより、実態を掴んでおきます。

アンケートを活用した調査と改善

メンター制度を機能させるため、アンケートを活用して、メンターとメンティー双方の声を収集することが必要です。
アンケートの実施により、メンター制度の良かった点や改善点、メンタリングの内容や時間配分など具体的なフィードバックを得ることができます。

メンター制度の期間終了後は得られたアンケートのデータをもとに制度の運用状況を分析し、問題点や改善点を明確にします。
アンケートは一回実施したら終わりではなく、継続的に実施することで、メンター制度導入の目的達成に近づいたかどうかが明らかになります。
以上のようにアンケートを基に自社の現状を分析し、改善することで、メンティーとメンター双方にとって満足度の高い制度を実現できます。

導入を成功させるためのポイント

メンター制度を機能させるためには、いくつかのポイントがあります。
1つ目は導入時に人事部が主導して、経営層と連携し、トップダウンでメンター制度について発信します。具体的には導入の目的とあわせて、メンターへの期待、責任や役割などを発信します。これらを丁寧に伝えることで、社員の理解と協力を得やすくなります。

2つ目はメンター制度の支援施策を策定します。例えば、ガイドラインや運用ルールなどを整えます。具体的には面談の連絡や頻度、メンタリング全体のスケジュール、振り返りを行うやり方や日程などを設定します。
また、面談により進捗や業務量などを確認することや、メンター同士が情報を交換できる機会を設けることも効果的です。

3つ目はメンターの支援機関を設定します。例えば、メンターとメンティーが事前説明を受けたり、相談ができる窓口を設けます。事前説明により、双方が理解するだけでなく、周りの社員の理解を得ておくことが必要です。職場内で業務量を調整することができれば、メンターの負担の軽減につながります。

わかりやすく制度内容を周知する

社員全員に対して、制度の内容を分かりやすく伝えることが重要です。
まずは事務局が社員全員に制度開始を告知し、目的・意義・価値を理解してもらいます。そのため、事務局はガイドラインや資料を準備して、社内説明会を開催します。説明する際は成功例や具体的な場面を挙げながら伝えます。

社員は適切な情報を把握することで、メンター制度の目的の理解が深まるだけでなく、制度の効果や運用プロセスなどをイメージしやすくなります。
その結果、メンター制度に対する周りの社員の協力を得やすくなり、職場内で支援を受けやすくなります。

資料や事例をもとに具体的な目標を設定

メンター制度を導入する際は、メンター制度で解決したい課題を整理し、具体的な目標を設定します。
目標設定の際は社内の資料や過去の事例に基づいて設定します。これにより、現実的なアクションを策定することができます。

目標を設定した後は制度の成果を確認しながら改善していきます。そのため、目標の達成度を検証できるように、定量的な指標を設定します。
例えば、メンター制度の導入前後での離職率の変化や、従業員へのアンケート結果の比較などを分析することで、メンター制度の効果を確認することができます。
このように具体的な目標を設定することで、メンターとメンティーが共有の目的や目標に向かって努力することができます。

長期的な観点での運用を目指す

メンター制度を短期的な施策として捉えるのではなく、長期的な施策として捉えることが重要です。
定期的にこれまでの運用状況を振り返り、課題や成果を検討します。それを社内にフィードバックすることで、企業のニーズや目標にあったアップデートを検討することができます。

初期の段階では期待したスキルが育成できているかだけでなく、人的ネットワークの構築や組織風土改革が進んでいるかという視点で検討することが必要です。
メンター制度をきっかけに従業員同士が助け合い、人を育てていくという企業風土が醸成されれば、若手社員・新入社員の定着につながります。そして、企業内に人を大切にするという風土が根付けば、社外にそれを発信することも効果的です。

メンター制度が仕組みとして定着するプロセスにおいて、制度を柔軟的に変える心構えを持つことが求められます。
以上のように社内でメンター制度を機能させることができれば、中長期的に企業の競争力が高まります。

【参考文献】
メンター入門』小野 達郎, 杉原 忠著 PHP研究所