第2回 サイボウズは本当に「いい会社」なのか【風土編】

前回のコラムでは、サイボウズの運営の仕方は、意思決定が上から下へ行なわれるヒエラルキー構造でありながら、情報や人の交流はフラットという、合理的であり自由でもある組織だということをお伝えしました。
しかし、そういう仕組みだけでは会社は機能しません。仕組みをまわすサイボウズの風土はどのように醸成されているのでしょうか。

仕組みだけでなく、それを実践する風土を大事にする

サイボウズではベースにあるべき風土としてすでに明言されているものがあります

「公明正大」
「自立と議論」(説明責任・質問責任)
「率先垂範」
「ルールより目的」

 

この中では「公明正大」が社員に与える影響力が大きいようです。青野社長は「アホはいいけど、ウソはダメ」と言います。身近な話として、「サイボウズでは、寝坊して遅刻したことをごまかさずに報告すると、周囲から二度寝しない方法をアドバイスされる」と語っていました。

仕事の重要な場面でも、事実をしっかり伝えないことは、他の人の判断を誤らせることになります。まずは事実を明るみに出してみることが、サイボウズの風土づくりの肝といえるでしょう。この点に関連することとして、今回実施したアンケートの中に印象深い結果がありました。

スコラ・コンサルトでこれまでにアンケートを行なった企業の平均点が3.15点(比較可能な34項目の平均点)のところ、サイボウズは3.94点と非常に高得点でした。ただし、1項目だけ「期日を守って遂行」という項目が3.43点にとどまり、他社と同じ程度だったのです。

理由は、業務に無理があった場合、どういう状況かが共有され、どうしていったらよいか、どの業務はやらなくても大丈夫か、を話し合うから。何が何でも目標必達と考えるのではなく、調整が入る余地があるのです(「ゆるい会社」と言われる一つの側面かもしれません)。

 

もうひとつ、面白いと思ったのが「質問責任」です。

「説明責任」はよく聞く言葉ですが、「質問責任」はサイボウズで初めて聞きました。おかしいと感じたことがあれば問い直し、良い状態にしていく参画者としての義務がある、ということでしょう。こういう風土の中で自浄作用が働くため、サイボウズでは他社のような隠蔽や不祥事は起こりにくいのではないかと私は考えます。「公明正大」に情報を公開し、「説明責任」と「質問責任」を果たしていくことは非常に難しいことだと思います。

サイボウズではなぜ実践できるのかを社員の皆さんに尋ねたところ、「上の人(経営層、先輩)ほど実践しているから」「こういう行動をとっていれば良い結果につながると思えるから」と答えていました。このような好循環になっているので、風土が自然に醸成されていくのでしょう。

自立と責任をベースにした自由な環境

自立心をもって責任を果たす人にとっては、自由な環境が一定程度あります。社内では数多くの交流イベントや勉強会が自主的に開催されています。会社や仕事に対する問題意識やアイデアを促す環境がつくられているのです。
そういう自由でオープンな環境のもと、意見を募集して人事制度が改善されていったり、新たな部署を立ち上げたりしたという印象的な話をいくつか聞くことができました。

環境も大事ですが、その環境自体をつくったり、活かしたりする「人」も大事です。自発的に取り組む人は全員でなくてもいいのです。一定割合いれば風土になっていきます。サイボウズでは、周囲に良い影響を与える主体的な人材が採用され、入社後も成長し続けながら、他の人とつながって仕事をしているのだろうと感じました。また、信賞必罰は表立っては目立たないものの厳しく判断している、という話も聞きました。一見ゆるく見えたり、人間らしさがあったりする中で、ところどころ厳しさも見られるのがサイボウズの特徴です。

他の会社でよくある状況

サイボウズのことしか知らない若い社員にとっては今の状況が当たり前になっていて、他社との違いがわからないという意見を聞きました。

他の会社はどうなっているのでしょうか?下図でいう「統制型組織」に該当するような、前時代的な会社では次のような状況が見られます。

  • 会議の場は、あらかじめ決まった方向性の承認の場に過ぎないか、会議で決まったことは別のところで結局調整が発生していて、議論によって結論づけられているわけではない。
  • 意思決定した内容が、上司から部下に一方向的に伝えられるため、部下の腹には落ちていない。
  • マネジメントの役割を認識していないプレイヤー感覚の上役が、階層を飛び越えて現場に指示を出すため、混乱を招いている。
  • 上役の言動を信頼できず、周りの人からも協力を得られない感じがあり、自分だけが率先してやると損をしそうに思う。

サイボウズでは「中身の薄い会議は少ない」という意見がありましたし、上司・部下間で状況がていねいに共有されているようです。そのため、「周りの人が頑張っていたり協力してくれたりするので自分も頑張る」という好循環が生まれている気がします。

「意外と普通」の会社だったサイボウズ

アンケートの得点は高すぎて驚きましたが、組織を見ていて思ったことは、サイボウズは意外と普通の会社だったということです。インタビューでも「意外と普通でしょ?」と言っている方がいて、私もそう思っていたので「はい」と答えていました。

ただ「普通」といっても「理想的普通」と言った方がいいかもしれません。

サイボウズは世の中に対して目新しいことを打ち出していますが、内部では普通の感覚をもっている人がビジネスの基本を忠実に実践しています。そういう意味での「普通」なのですが、「組織運営の理想的な姿としてはこういうことを着実にやったらいいよね」ということを地道にやっているので、良い意味で教科書的です。組織づくりの参考になります。

もちろん、できていないところもあったり、できていない人もいるのかもしれませんが、概観としてはできています。もしくは、いまはできていなくても、できる方向に向かっていくサイクルが回っていると思います。それでは、なぜサイボウズは「普通」のことを地道にできているのでしょうか。それは、めざしているものがあるから――。

次回は、サイボウズがめざしているものを見ていきたいと思います。