滝口健史によるサイボウズ 青野慶久社長 & 山田 理副社長 対談

最終回はサイボウズの青野社長、山田副社長との対談です。私の研究結果に照らして、サイボウズの組織づくりで意図されてきたことを確認しました。また、お二人のあいだのチームワークはどうなっているのか、アイデアが生まれる過程についても伺うことができました。

 

サイボウズの組織づくりの意図

──私が研究して感じたのは、サイボウズは情報の共有、「質問責任」、会議のやり方に見られるように、組織づくりの基本を忠実に守っているということでした。情報はフラットに行き渡る一方で、組織構造はフラットではなくヒエラルキーがきちんとある。この体制は、意図してつくられてきたのでしょうか?

 

青野 なぜそうしたかを考えてみると、サイボウズの場合は「チームワークあふれる社会を創る」という壮大な企業理念を掲げたからなんです。目指すものが大きくなければ自然発生的にワーッと集まってやってもいいのかもしれませんが、この理念を成し遂げるためには統制をとっていかないと無理だと思っています。

 

山田 サイボウズも、青野さんが社長になる前は、統制を取るというよりは、もう少し個人の意見を聞いて進むという方向でした。でも、個人の意見を尊重すると、小さい事業がポコポコ生まれ、リソースが分散していく。加えて、みんなの意見を聞くから、逆に「誰の意見でそうなったのか?」がよくわからない。

そのようなカオス的状態から脱して、「掲げた理想へと向かうために、みんなで協力し、集中して動く」という組織のメカニズムを、青野さんが社長になってから結構意識してきたと思います。それが「いいな」と思う人は残っているし、「大きな会社になっちゃった」と窮屈さを感じて辞めた人もいて、どちらがいいというのではないというか。

 

青野 象徴的なのは、10年前と比べて社員数はいまのほうがずっと多いにもかかわらず、プロダクトの数は減っていること。本当にグローバルに突き抜けられるプロダクトに集中しようという感覚なんです。昔は社員が「こんなのつくりたい」とアイデアを提示すれば、「どうぞ」といってチャレンジさせていたのですが。

 

──たしかに。目指す方向にフォーカスしている感じがありますね。ところで、サイボウズ内でお会いした方はみんな、「ビジョンに共感し、主体的に仕事をしている」人ばかりでした。「関係性」「主体性」という基盤があって「チーム思考」が機能している例として、他の会社にも参考になると思ったのですが。

山田 そこは悩ましいですね。主体性も「あるかなしか」ではなく、「『1%ある』から『100%ある』まである」のであって、極端な話、「100人全員が主体性100%の組織」というのが効率よくいくのかというと、そうでもないような気がする。多様性という観点からすれば、主体的な人だけが素晴らしいわけでもなくて、いろんな個性がある中で補い合うのが大事だと思うんです。

それは、滝口さんが作成してくれた2枚の図につながるかもしれませんが、創造的組織と統制型組織というのがあるとして、統制型は創造的にならないのだろうか?と僕は考えるわけです。

図1 組織の進化モデル
環境変化への適応能力×社員の創造性の発揮度

 

図2 組織の進化モデル(詳細)

 

例えば、Appleは、会社としてのアウトプットはかなり創造的ですが、相当統制的な組織だったのではないか。つまり、トップがものすごく創造的で、しかも統制が取れているから、一気にあれだけのリソースで創造的なことができたのではないでしょうか。逆に、トップが創造的でなかったら、社員から知恵を集めるために、創造的な組織をつくらないといけないかもしれない。一概に統制型と創造的とがふたつに分かれて常に相反しているのではなく、割合なんじゃないかと思うんですよね。

 

──そうですね。図2のように、どの割合で組織の中に配分されているかだと思います。主体性に関しても、100%の人ばかりだと急に何か始めてしまって手に負えないこともあるかもしれない(笑)。やはり、組織として十分な主体度が達成できていればいいのかもしれませんね。

 

山田 どこの会社でも難しくないかなと思うのは情報をオープンにすることかもしれません。信頼性の高いチームビルディングに必要なのは情報共有だと思います。社長や担当者が持っている情報をいかに社員にシェアできるかなのですが、さらに言えば、社員それぞれの個性のような情報までシェアしていくと、人は関係性を自然とつくりだします。仲良くなる人と仲良くなるし、共感する人は共感する。オープンな情報によって、正しい距離感をつくりやすくなるというか、「この件は得意な彼に任せよう」という役割分担も自然にできるようになる。

関係性を強化するというと、真ん中に全員を寄せていって「強固な信頼関係を構築するぞ! おー!」みたいなことになりがちですが(笑)、そうではないんじゃないかと思うんですよね。サイボウズもそういうふうにはしていない。

──たしかにサイボウズでは、お互いを尊重して仕事をする姿勢が見られますね。ただ、日々の仕事の忙しさのなかで、お互いの良いところをあらためて伝える余裕がなかったりしますか。

 

山田 互いの強みと弱みを見つけて補っていこうという研修をやっていますが、意識的に個性にスポットを当てて対応することは不足しているかもしれませんね。各自の役割はしっかりあるけど。

 

──サイボウズの場合は、情報がオープン、かつ、何か問題だと思えば自由に発言できる環境が整えられているから、あとは自分次第ですよね。主体的にできる人はやっていくし、互いのことをわかりあって互いがうまく生きるようなチームになっていってもいい。

 

青野 環境をつくれば何か出るはず、という発想ですね。無理に引っ張らなくても、いろんな人が同じように情報を持って、いろいろと議論すれば、何か必ず生まれてくるということだと思います。

≪ここがポイント≫
目指す姿の実現に向けてある程度の統制を効かせる一方で、社員には多様な立ち位置を認めるというバランス感覚をもって組織づくりをしてきたことが確認できました。ベースには情報共有(業務だけでなくお互いを知ることも含む)があり、環境づくりに徹すれば自然に何かが生まれるという、社員への信頼があることも新たに見えました。「自然」であることを意識しているのがサイボウズの特徴だと私は思います。

 

青野社長と山田副社長の信頼関係、チームワーク

青野 よく「信頼関係」というじゃないですか。最初よくわからなかったんです。辞書で調べると「信じて頼む」とあって、そのままやんけって感じなんですが(笑)、例えば僕は信頼されているのかというと、会社の野球チームに入った瞬間にめちゃくちゃ信頼度が低い(笑)。

 

山田 青野社長は頼れない(笑)。

 

青野 ほぼ信頼されない。でも、「信頼」も「信」と「頼」とふたつあるから、「頼ることはないけれど、信じることはできる」というレベルもあるじゃないですか。例えば「彼はスキルはないけれど、嘘は言わない」とか。

──なるほど。青野社長と山田社長は、お互いのどういうところが頼りになると思っていらっしゃるんです?

 

青野 こっ恥ずかしいことを聞きますねぇ(笑)。

 

山田 青野さんはやはり事業が得意ですよね。僕はそんなに得意でもないし、そこまで好きでもない。でも、組織づくりは好きなので、そういう役割分担があるのかなと。

 

青野 いま、来期に向けて組織体制を変更するタイミングなんですが、自分の中のいろんなアイデアは山田さんにチェックしてもらっています。僕が忘れている本質的な大事さみたいなところが抜けている可能性があるので、山田さんのフィルターで確認してもらわないと怖い。

山田 僕からすれば、青野さんはすごく創造的なんです。新しいことを次々と発案して、「次はこれがやりたい!」と言い出す。僕は一つひとつ納得したいタイプだから、「なぜ、それをいまやるんですか」「いままでやってきたこととどんなつながりがあるんですか」と事細かに尋ねていく(笑)。

 

青野 筋が通っているかを確認してくれるんですよね。

 

山田 特に僕は「サイボウズがなぜこんなことをやっているのか」を社内・社外に説明する側にいるから、「青野さんのこのアイデアをどう説明しよう?」から入るわけです。ひょっとしたら斬新で突飛な部分を消してしまう可能性もあるけれど、説明しやすい状態にはなっていく。

 

青野 逆に、筋を通すと突飛なのが出ますけどね。

 

山田 ああ、逆に?!

 

青野 副業についても、そもそも就業規則で縛っていることが説明できないのであれば「就業規則が間違っているんじゃないか? だったら1回外してみようか」というふうになって。

山田 そういう意味ではサイボウズが掲げる「理想」のところなのかな。チームワークあふれる社会であり、チームワークあふれる会社であって、多様な個性を重視するという軸と照らし合わせて筋が通っているのかという。

≪ここがポイント≫
「山田副社長が筋を通すために問うと、青野社長から突飛なアイデアが生まれる」というのが私にとって一番の発見でした。お二人がお互いをどう見ているかをあらためて伝える機会は普段はあまりないようでしたが、アイデア創発の過程を言語化できたこのやりとりはとても楽しかったです。

 

サイボウズにおける「仕事の創造性」

 

青野 最近よくあるのは、本部長クラスが出してきたアイデアより過激なことを僕らがやろうとする構図(笑)。

 

──本部長さんたちから過激なアイデアが出てきて、経営者がそれを少しまともにするほうが、代替わりしたときにはいいような気もしますが。

 

青野 実はそこはそれほど心配していなくて。極論的に言っているんですが、僕が死んだらサイボウズは一回解散してもいいと思うんです。いま僕は、自分の頭の中にある強い理念があって、それに沿って会社を進めている。でも、この理念に対するこだわりを他の人が持っているはずがない。バックグラウンドが違いますからね。だから、次の代の人は違う理念を立て、そこに徹底的にこだわればいいと思っています。

山田 青野さんの「僕が死んだらサイボウズは一回解散してもいい」というのにつながるのですが、会社として存続したいと思っていないんです。

例えば、主要部門が売れなくなってきた会社があったとして、次なる成長を目指して新しい創造を求める会社と、求めない会社があるのかなと思うんです。僕らは後者で、会社自体を大きくしようとしていないから、会社を変えてしまう創造性、事業を変えてしまう創造性を社員には期待してないというか、それなら他社に行ったらいいんじゃない?と転職をお勧めします。

一方で、創造性というのは資料ひとつ作成するのにも要るわけで、ひとつの範囲の中での創造性はあったほうが、よりよいアウトプットが生まれ、よりよいチームになるのではないかとは思います。

 

青野 理念に沿うかたちで、個人の仕事としてどんどん創造性を発揮すればいい、という感じですよね。

 

山田 そう。僕がイメージ喚起のために持ち出すのは「キャンプファイア」です。真ん中に焚き火があり、そばで青野さんや僕が必死になって歌って踊るみたいな。それが楽しそうと思う人は近くで一緒に歌って踊るし、歌も踊りも恥ずかしいという人は少し離れたところで座って見たり聞いたりしている。そのうち飽きたと言って違うことをやり出す人もいる。

 

青野 あっちで花火大会を始める(笑)。

 

山田 そう(笑)。それにも飽きたら、また焚き火のそばに戻ってくる。でも、とにかく僕らがやることは、真ん中で歌って踊ることなんです。その歌と踊りがめちゃくちゃ楽しければ、多くの人がじわーっと集まってくるし、つまらなくなったら消えていく。まさに灯が消えるように。

──つまり、理念に対して、いろんな距離感の人がいてよいということですか。

 

山田 そうです。その距離感の中で、チームとしてアウトプットを出していってくれればいい。チームワークを発揮していく上での関係性、役割分担、コミュニケーションの仕方とかはサイボウズにはありますよというノリです。

これまでの会社はまさに「会社法」というか、お金と法律、契約で結ばれているところがすごく多くて、それが塀になっている。僕は、お金や契約ではなく、理想でつながる組織を目指したい。だから副業してもいいし、辞めて戻ってきてもいいということです。

≪ここがポイント≫
会社は存続しなければいけない、という前提を問い直したり、青野社長の強い理念で突っ走るが色々な距離感の人がいてもよい、という考えている点は、極論を言っているようでいて実は本質を突いているように思えます。「事業の創造性ではなく、各自が仕事の中で創造性を発揮することが大事」と経営者が考えていることは、インターン中の感覚と一致していたので「なるほど」と思いました。ゼロから生まれた製品を大事に育て、1を10にする人や、10を100にする人たちがいてサイボウズが成り立っている感じがありました。

 

──よくわかりました。逆にお聞きしたいことはありますか?

 

青野 サイボウズはどのような点が一番特徴的だと思いましたか。

 

── 一番の肝は、情報がオープンなので、問題があったときに自分たちでその問題を表沙汰にして解決できる自己革新力がある点だと思います。ここが他の会社とは大きく違います。世の中には、業績が良くても、人の入れ替わりが激しかったり、経営層の力が強くて、社員にやってもらっているという関係の会社があると思いますが、社員も満足度が高くて、会社が持続的に同じメンバーで発展するかという基準で考えると、そういう会社は「いい会社」ではないかなと。

山田 「いい会社」の基準がスコラさんとサイボウズでは似ているのかもしれませんね。

 

──こういう基準で「いい会社」と言っているので、逆に興味がない人は遠くに行ってくださいと、いうことでもいいのかもしれません。

 

山田 そうそう。それで違いが際立っていくといい。

 

青野 どういう基準で「いい会社」なのかということで今後もお願いします。

 

──はい。本日はありがとうございました。

 

≪まとめ≫
今は統制的にやる部分も必要だと判断していますが、お二人の話を聞いていると、今後の外部環境や自社のステージによっては、必要とあらば組織形態も柔軟に変えてしまうのではないかと思えるくらいに独創的な経営チームでした。「サイボウズ式」編集部もとても柔軟で、この研究記事の内容についても制約がほとんどなく寛大でした。情報をオープンにすればあるがまま自然に評価されるという考えなのかもしれません。これからもサイボウズの進化を追い続けたいと思います。
写真:橋本美花