日本の組織を深部で動かす「武士道」の美意識(前編)</br> ~忠義のタテマエが思考・行動の自由を奪う|コラム|スコラ・コンサルト
日本の組織を深部で動かす「武士道」の美意識(前編)</br> ~忠義のタテマエが思考・行動の自由を奪う

日本の組織を深部で動かす「武士道」の美意識(前編)
~忠義のタテマエが思考・行動の自由を奪う

柴田 昌治 | 2018.03.14

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日本の組織を深部で動かす「武士道」の美意識(前編)</br> ~忠義のタテマエが思考・行動の自由を奪う

一般にほとんど意識されることはないのですが、日本社会のガラパゴス化に大きな役割を果たしているのが「武士道」の精神です。今もなお日本人の意識の根底にある序列意識などに、その大きな影響力がうかがえます。

たとえば、先輩・後輩といった日本人の身体にしみ込んだ感覚は、日本の社会に色濃く見られる序列意識によるものです。こうした意識は、そもそも鎖国以来、時代の中で培われてきた伝統に由来し、当たり前の感覚として、私たち日本人の中に生き続けています。先輩・後輩感覚を、あたかも美意識のように共有している日本のような国は極めて珍しいのです。

問題なのは、先輩後輩という言葉に象徴されるような序列意識が、 “立場をわきまえ、上位者には黙って従う”“出過ぎた真似はしない”といった不文律の土台になっていることです。この不文律は、階層組織で動く企業の中で、組織を動かす基本ソフト(OS)として機能し、個人の思考や行動の自由度を今なお強力に制限しているのです。

こうした美意識化した序列意識は、組織を硬直化させる組織風土の根深い問題なのですが、この歴史的な負の遺産の由来や影響について、これまでほとんど指摘されることはありませんでした。

では、なぜ日本や日本企業にこうした特異な状況が生まれることになったのか。その歴史的経緯を、世界史的に見ても特異な状況にあった江戸時代の鎖国とそこで大きな役割を果たした武士道にさかのぼって整理してみたいと思います。


●個々の行動を律する「タテマエ」で安定をはかった江戸時代

「武士道」とひと口に言っても、戦国時代のそれと江戸時代の鎖国状態の下でのそれとでは、その性格には本質的な違いがあります。戦国時代の武士道は、いうならば戦いに際しての心得、といった性格を強く持っています。戦いと共に生活していたのが戦国時代の武士ですから当然です。

これに対し、「鎖国」という、ある意味では世界に類を見ない外部の世界と隔絶され、戦のない社会における武士道は、自分が属する藩や藩主に対する忠義を尽くすというタテマエで成り立っています。この「主君への忠義を核とするタテマエで構築された格式の世界」を堅持することで、江戸の時代、2世紀以上にわたる鎖国社会の秩序と安定は維持されたのです。

江戸時代の支配層であり、安定を司る役割を担ってきた武士は、ストイックに格式と体裁をタテマエとして守る存在でした。江戸幕府は、あらゆるものに定めた格式に基づく様式をタテマエで堅持することを通して、武士の思考と行動を「武士道」という枠の中で徹底させたのです。この武士道があってこそ、超がつくほど安定した社会が実現し得たのです。

 

ただ、武士は支配層とはいえ、富を潤沢に享受していたわけではありません。格式に基づき体面を守ることを何よりも要求され、財政的には常に苦しい状況だったのです。しかし、武士の“滅私奉公”というストイックな姿勢や精神性は、一種の権威として世間に認知されることになりました。

その武士道の心得として、タテマエの中核を占めていたのが「忠義」であり、それと裏表の関係にある序列意識です。“忠のためなら死をも賭す”序列に基づくストイックな世界が鎖国時代の武士道だったのです。ちなみに忠臣蔵というのも、私たち日本人は当たり前のように美談として観ていますが、初めて観る普通の外国人にとってはかなり違和感を抱かせる文化なのです。

●教育勅語によって広く社会に浸透した「上下意識」

明治以降、現代に至るまでビジネス社会にも大きな影響をもたらしているのが、実は武士道の忠義というタテマエと、それと表裏一体の関係にある序列意識で形成された「滅私奉公」の精神です。

江戸の時代、武士が守らなくてはならなかったタテマエは、自分の主人、つまり藩および藩主に対する忠義でした。ただし、江戸時代の忠義はあくまで武士の世界の話であって、必ずしも農民や町民がすべて同じ意識を持っていたわけではありません。この忠義が日本国民全体のものになるのは、実は明治維新を通じてです。

19世紀の後半、世界は植民地化の時代です。欧米列強が植民地化を狙って、アジアにも押し寄せていました。鎖国が崩れ、日本に西欧近代化の波が押し寄せた時、もしも藩の意識しか持たない日本のままであったならば、やすやすと列強のなすがままになってしまったでしょう。日本として欧米列強に対抗し自立していくために、前提として必要だったのが「富国強兵」という意識です。それを武士だけではなく、日本人全体が持つことでした。

 

そこで重要な役割を果たしたのが「教育勅語」です。

教育勅語では、天皇に対する忠義が説かれ、それまで主に武士の世界でのタテマエとして機能してきた忠義が、天皇の臣民として、全国民に要求されるタテマエになったのです。天皇に対する忠義を意識させることで、“日本国”という意識を臣民に植え付けることに成功した、ということです。

忘れてはならないのは、この忠義という概念の裏側には、格式という強い序列意識があたかも美意識として共存していたということです。この美意識が今もなお、鎖国時代の負の遺産として国民の意識の中に連綿と生き続け、日本という国にガラパゴス化をもたらしているのが現実なのです。

もちろん、負の側面だけではありません。日本という国は今もなお、安全で秩序を重んじる国として世界から認められています。その理由のひとつに、教育勅語で普及させた道徳基準が私たちの文化として根付いている、という点があります。

 

通常、押し付けられるだけでは根付くとは限らないのが道徳というものです。しかし、鎖国時代に培った、周りと争わない“空気を読む姿勢”を多くの国民が共有していること、それが道徳基準と相互に作用・増幅することで、道徳的な文化として定着したのだろうと思われます。

この、臣民が天皇に対して忠義を尽くさなくてはならない、というタテマエは敗戦まで効力を持ちます。

戦後、臣民という概念こそなくなりましたが、忠義というタテマエの裏側にあった潜在的な美意識は、特に誰からも意識されることなく、たとえば先輩後輩意識のように、序列意識として私たち日本人に染みついたまま残っているのです。


(後編につづく)

著者プロフィール

柴田 昌治

柴田 昌治

MASAHARU SHIBATA

80年代後半から企業風土・体質改革のコンサルティングに取り組む。 変化を妨げている価値観を変えながら変革のプロセスをつくり込んでいく「プロセスデザイン」というやり方が特徴。

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