世の中はすごい勢いで変わっています。多くの会社が市場環境の変化や深刻な人手不足に将来不安を抱えながら、収益力向上とビジネスの革新を迫られているのが今の時代です。さかのぼって5年前、3年前の自社と比べてみたとき、今の自分たちは、自信をもって未来に向かうための指針や基盤となるものを手にしているでしょうか。

「完璧に良い会社になりました」とはいかなくとも、自分たちだからこそ描ける「なりたい姿」に向かって確実に近づけている実感を持っている。去年とは中身の違う会社になっている。顧客としっかり向き合うことで去年にはなかった新たな課題を見つけて着手している……。
このような状態を実現する後戻りのない企業変革の手助けができればと思い、多くの好例を紹介しながらまとめたものが今回の新刊です。

今日、成長の踊り場にあって足踏みしている会社の多くが、キャッチアップや目先の利益追求、過度な分業による効率化によって自社の優位性や組織力を低下させ、商品・サービスに対する自信や誇りを失っています。それを回復していこうとするなら、もっと自分たちの持てるものを耕し、独自の価値をつくり出して社会や市場に求められる存在になっていくための「変える力」を育てることが必要です。

では、何を基軸にして取り組んでいけば、そういう力が身につくのか。
そこで第一ボタンを掛け違えないように起点を設定できれば、企業変革の半分は成功だと思っています。

そのカギになるものとして私が重視してきたのは、飛躍の突破口となる事業の「強み」と、企業の活力の源泉となる自社商品・サービスへの「自信・誇り」です。これらの質が相まって高まっていく改革のプロセスをつくり、変化のサイクルを回し続けることが、業績向上と社員の働きがいを高めることにもつながります。

光が当たらず埋もれている内部資源に「価値創造のタネ」がある

自分たちらしさを失わないで会社を変えたい、しかも現有のメンバーでミニマムに取り組みたいというとき、私がまず目を向けるのは、未来の話ではなく、長期にわたって会社に蓄積された有形・無形の「財産」です。
今日に至る事業の歴史や、今の仕事の基盤を成している分厚い経営の蓄積の中には、先達の苦労や試行錯誤の粋が詰まった“価値創造のタネ”が隠れているからです。

たとえば、
・「過去もの」として無条件にお蔵入りしているもの
・経営の交代や刷新によって不適合扱いになったもの
・身近にありすぎて社内では誰も鮮度を感じなくなっているもの
・「過去の成功体験にとらわれない」ため意図的に排除しているもの
など、無自覚に封印している財産はどこの会社にもあります。

【過去の成功に関わる目に見えない資産】
成功や失敗の経験やプロセス、技術、技能・知恵・ノウハウ、商品づくりや販売などの着想・アイデア、ビジネスの思想や価値観、組織や仕事のスタイル・文化、人材特性、顧客との関係性など先達が多大なエネルギーやリソースを投じて考案し、一時代を築いた足下の財産から、新たな価値と可能性を見出した例を取り上げてみましょう。

◆建材メーカー、アルミックイマイの「アルミ部材を円形に曲げる技術」は、身近に当たり前にあるものとして、社内ではその価値に気づいていませんでした。それをあらためて見直し、曲げる技術を生かして、直径20センチの世界一小さい丸窓を開発、リリースすることで新規顧客の開拓に成功しています。

◆葬儀用品メーカーの三和物産では、創業から現在までの取り組みをふり返る中で、過去の売れ筋商品の背後に「葬儀文化の創造」を意図した先達がいることを知りました。過去の成功体験として終わらせるのではなく、このスピリットを自分たちが引き継ぐと定めた瞬間から、商売の仕方、商品づくりの視点が大きく変わっています。

◆松屋コーヒー本店の創業者が開発した「ドリップ法」は、もう時代に合わないと、自分たちがその可能性を狭めていた時期がありました。
その原点にある“冷めても味が落ちにくい”抽出法を、業務店だけでなく一般消費者向けに展開し直すことで、再び市場が活性化しています。そして、強みを中心に置き直した商品開発は、コーヒー豆の幅広いラインナップに生かされています。

◆ある機械メーカーは、起死回生の商品を生み出した先達の取り組みをひも解いて研究し、今の仕事の進め方を見直してみることで、過去の開発では大切にされていた「価値を付与する段階」を見過ごしていたことに気づきました。仕事の進め方の中にある意味をみんなで吟味した結果、商品開発プロセス自体を変えて、新しい機種開発に臨んでいます。

このように「会社に眠る財産」をていねいに見ていくことが、変革の出発点になります。創業から現在までをさかのぼることで見えてきたものを変化の足場にするのです。

サビついた「強み」を磨き直して看板にする

通常、会社の低迷状況を打破するための商品・サービスの開発やイノベーションの取り組みとなると、まったく新しいものを外部から持ち込んだり、一からつくり出そうとする発想になりがちです。
しかし、内部にあって単純に“古いもの=役割を終焉したもの”として片付けてしまっているものを探り出して、深掘りし、今日の課題認識で再び光を当て直すと、まったく新しい意味を持って再価値化できるケースは少なくありません。

しかし、すでにそれが“有る”ことになっていて、外部環境の変化とともに見直されたり、磨き直されたりすることもないのが多くの会社の「強み」ではないでしょうか。

これがあるから選ばれる、圧倒的な差別化要素になっている、自社の営業に優位性をもたらしている、そんな市場から見た目印になるものが「強み」です。そういう意味では、自社の強みほど、いい加減に扱われているものもない、と言えるかもしれません。

強みの上に未来を築く、というのは当たり前の考え方かもしれません。
しかし、自社の強みがセールスのアピールポイントとして自信をもって展開できない、抽象度の高いままになっていては、本当の強みを特定したことにはなりません。「社員のまじめさ」「○○のパイオニア」「品質第一」「のれん」などがそうです。

会社の強みとは、お客様に選ばれている理由の源泉になるものです。
具体的には、商品・サービスを生み出す過程で身につけてきた広い意味での技能(メソッド、経験、仕事の進め方、品質・スピード・創意工夫・誠実さなどに関わる職場文化)、無形の知的資産です。これらは、属人的でその人が去ったら終わりというものではなく、無自覚的であったとしても、新たな何かを再現するベースになっているものです。

その「強みを磨く」取り組みは、強みが詰まった商品・サービスの価値を研ぎ澄まし、品質と価格とのバランスを磨いていくことで具体的な市場アプローチのアクションに置き換わります。そこで、さらに未開拓のお客様のニーズに目を向け、それに応えるために、強みを核にした商品・サービスの展開領域を広げていくのです。

「顧客や社会によりよい変化をもたらす」ミッションを求心力に

私は、会社と社員、メンバー同士の関係が前を向いた掛け算のチームになるためのカギは「自社の商品・サービスを通じて顧客や社会をよりよいものに変化させる」というミッションへの焦点化にあると考えています。というのも、商品・サービスは、お客様の仕事や生活が向上するという“その先の姿”を実現するインターフェースだからです。

そこにメンバーの関心が集中し、たとえば「世界一レベルで実現する」といった飛躍を生み出す基準をもって、その先のよりよい変化をめざしていければ、その取り組みを起点とした多くのコト、周辺のシステムにも変化が起こりやすくなります。
価値の受け手である顧客の欲求に、自分たちならではの商品で応えている。そのたしかな手ごたえや自信、誇りのようなものは、会社の雰囲気や互いの関係性も変えていく原動力になるのです。

お客様に関心を持ち、お客様以上にお客様になりきって考える仕事には現実感や具体性が生まれ、自分たちの課題が明確に見えてきます。
お客様との関係の変化が実感されず、組織や現場が数字や理屈でお客様を捉えるようになると、変化の必要性や当事者意識も薄れます。
結果として独りよがりの仕事になり、仕事の意味を見失うと、自分たちの商品にも自信や誇りが持てなくなるのです。

自社の商品・サービスの“その先”を模索し、新しい価値を探って試行錯誤を重ねるプロセスの中では、自社のさまざまな資源やそれを生かす社員の思考・行動が耕され、時代や市場にマッチした会社としての自信や誇りも育っていきます。

自分たちの足下に眠る財産を掘り起こし、今日の課題意識で見直して新たな価値を創造する、そのプロセスを通じて実行の主体者や大きなチームワークを育てていく改革。
そこで成長したリーダーたちの「変える力」が衰えることはありません。

悩める会社の現状打破に、本書が少しでもお役に立てばと願っています。

■岡村衡一郎の新刊
「会社に眠る財産」を掘り起こせ!(朝日新聞出版)