市の経営の4つのポイント

10月22日にマッセOSAKA(公益財団大阪市町村振興協会・おおさか市町村職員研修研究センター)にて、今年度新しく開催した連続講座「行政経営マネジメント研修 ~トップダウンとボトムアップをつなぐ行政参謀の役割」の最終回の一部を公開講座として実施しました。

当日は、前半に四條畷市の東修平市長から「行政参謀への期待と関わり」についてご講演いただき、後半に、東市長とコメンテーターとして前大阪市東淀川区長、大阪経済法科大学21世紀社会総合研究センター客員教授金谷一郎氏にご参加いただき、行政経営デザイナー元吉由紀子がコーディネートしてパネルディスカッションをしました。

東市長は、外務省に勤務した後、野村総合研究所インドにて海外での事業コンサルティングに携わるなど、多彩な経歴を持ち、2017年1月に全国で最年少の28歳で市長となられました。その後は、副市長を公募して、民間企業から子育て中の女性を採用、ICTを活用した市民協働のまちづくりなどに注力されています。

講演では、東市長から、市の経営にあたっては「財政」「政治」「戦略」「戦術」の4つのポイントがあると明示されました。
各ポイントは左にいくほど上位にあり、下位の取組みは、そこに従事する人たちがどんなに熱心に取り組み成功したとしても、上位の方向づけが誤っていれば意味をなさないこと、これらを方向づける【首長】及び【参謀】の重要性が示唆されました。

【首長】及び【参謀】の重要性

首長にとって「戦略」を相談できる相手が参謀と位置づけられています。
そして、これらの項目を<判断>と<実行>段階に分けて、【首長】と【参謀】が果たす役割が異なり、補完関係にあることが語られました。

<判断>にあたり、【首長】にとって最も重要なことは兵站、すなわち(1)兵糧の確保です。「財政」「政治」上可能な「戦略」でも、実現できなければ絵空事。特に人というリソースが確保できるかを見極めなければいけません。それには、(2)現実を直視して、いま抱えている市の課題をしっかりと総覧する必要があります。
また、多様な選択肢の中から考えることも重要であり、そのため、部下に対しては、できるだけ(3)言論の自由を確保できるよう配慮し、そのような雰囲気を醸し出すよう努めていらっしゃるとのことでした。

これに対して、【参謀】には、その<判断>をするうえで、(1)強烈な個性を発揮して、(2)戦略に関する独立した意見を述べることを期待しておられます。

組織の外から来た首長と違い、行政幹部には、行政経験が豊富にあります。
これらの経験の中には、宝と言える価値があるため、その経験と照らし合わせ、肌感覚でとらえた意見を聞かせてほしい。
よくありがちなのは、多数の人の意見をとりまとめた一般論ですが、首長としては参謀役個人の個性を存分に主張してほしい。
それが、首長にとって戦略の可否、選択肢を判断するうえで重要な情報になるというわけです。

<実行>段階においては、【首長】が果たす役割は少なく、決まったことを確実に実行できるよう、(1)職員をただ鼓舞し続けるだけだと言われました。
一方、【参謀】の役割は多くなり、(1)戦略に立ち返ること、(2)撤退する勇気を持つこと、そして、(3)歌って踊れる能力、を期待しておられます。

戦略の意図は、一般職員には伝わりにくいものです。
そこで、職員が「戦略」達成に向けた「戦術」を実行するなか、「戦略」の方向性からずれていく際、もともとの「戦略」が何だったのかを絶えず共有することが重要です。
また、戦術が誤りだとわかれば、撤退することも大事。戦略を変えず、戦術を変更する必要が出てくることがあるはずです。
加えて、自らが率先して舞台の上に立ち、歌って踊って見せる、すなわち、手本を見せたり、部下に寄り添ったり、実現に必要なことを何でもやることも必要だ、ということが語られました。
何事も実行されなければ意味がない、ということです。

簡潔明瞭に、首長のリーダーシップのもと組織力を発揮していくために、行政参謀が首長と職員をつなぐ役割を果たしていくことの重要性とポイントがよくわかりました。

会場には、研修に参加されていた四條畷市の副市長、調整監も最前列で聴いておられました。毎日顔を合わせ、日々政策の意思決定と戦略の相談をしている間柄ですが、「日頃首長がおっしゃっていることを整理してとらえ直すことができた」との感想を述べておられました。

地方分権が進み、地方を創生するためには、地方の独自性を発揮する政策や戦略の判断と意思決定が重要になっています。
各職場では全国一律の法律事務を進める中にいかにうまくこれら地域の政策、戦略を織り込み、進めていくのかという運営上の課題が増してくることになるでしょう。
首長と組織をつなぐ“行政参謀”の実践事例と、首長から見た行政参謀への期待と関わりについては、今後他の自治体情報も収集しながら、行政経営に役立つポイントを見出していきたいと思っています。