「当たり前」を問い直すアプローチ (後編)<br/>~ 長所の自覚で、仕事の世界が広がる|コラム|スコラ・コンサルト
「当たり前」を問い直すアプローチ (後編)<br/>~ 長所の自覚で、仕事の世界が広がる

「当たり前」を問い直すアプローチ (後編)
~ 長所の自覚で、仕事の世界が広がる

刀祢館 ひろみ | 2019.09.26

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「当たり前」を問い直すアプローチ (後編)<br/>~ 長所の自覚で、仕事の世界が広がる

▼前回コラムはこちら
http://a04.hm-f.jp/cc.php?t=M1020198&c=44688&d=27f4


前編では、企業での管理職育成のあり方を問い直し、「長所伸展型」の研修を取り入れたIT企業A社のT事業部長の思いを紹介しました。この研修の背景には、新しい技術やビジネスモデルが次々に登場する変化の激しいIT業界の環境に、自社の仕事のしかたが追いついていない、という危機感がありました。


「短所是正」力で、会社は成長してきた    

A社は、日本の大手企業各社のITシステムの構築と保守を担い、顧客企業からは次のような仕事で好評価と信頼を得て成長してきました。
・大規模なプロジェクトを遂行できる組織的な管理能力がある
・要望を丁寧に聞いて、顧客本位で誠実に対応してくれる
・真摯な技術者。「まじめでいい人」がそろっている

お客様からの期待に応え、納期までに必要な精度のITシステムを構築し稼働させるには、システム開発の過程で無数に出てくる不具合を徹底的に潰すことが求められます。そのためには、管理項目を網羅したチェックリストにしたがって、開発現場の技術者が一つひとつ「できているか、できていないか」を確認する。できていないことは直ちに修正する。この行動の徹底による組織的な仕事が成長期の成功の条件でした。

A社では「できていないことを見つけて直す」が「当たり前」であり、この仕事の文化が事業を支えてきたのです。

一方、市場を見ると、自前でシステム構築するのではなく、必要な時に必要なだけ利用して料金を払うサービス化や、パッケージ導入の動きが進んでいます。日本企業では主流だった、お客様の要望にきめ細かく応じてITシステムをゼロからつくり上げるビジネス需要は、すでに成長が見込めなくなっています。

そうしたビジネス環境の変化に合わせて、事業戦略を組み直し、組織体制も変え、仕事の中身も変えていく必要があります。そこでは正解、不正解がわからないため、“やってみて考える”という前向きな試行錯誤が求められるようになっていたのです。

しかし、A社は長年「できていないことを見つけて直す」という手堅い仕事のしかたで収益をあげてきた会社です。社内会議で出てくる意見や質問は、できていないことの指摘や対策の確認が多く、「短所是正」の思考や行動は業務の基本動作として当たり前になっていました。


「長所伸展」研修で実現したかったこと

「うちは短所是正の思考が染みついている。それには理由がある。お客様の信頼を得るには、そういう仕事のしかたが最適で、この文化で成り立っていたからです」今まで疑問を持ちながらも、それで実績を上げてきたT事業部長は、管理職研修の冒頭、参加者に向けてこう言います。

「ただ、これからを考えたときにどうでしょうか? みなさんにどういうリーダーになってほしいかをお話しします。もっと自分の個性を出してほしい。自分の魅力を使ってほしい。会社ではそういうことは関係ない、と思う人もいるかもしれませんが、自分の個性や特性を出して仕事することのほうがいいんです」と熱を込めます。

参加者たちは「変わったこと言うなぁ、この人は」「でもちょっと面白そう」という興味深げな表情で、身を乗り出して聞いています。

T事業部長の話はその目的に移ります。「なぜ、こんなこと言うのか」

1つには、製品の仕様や提案の中身では他社と決定的に大きな差は出ないから。うちの仕事は1回買ったら終わりというものではなく、お客様と長くやりとりして進めていくもの。だから「あの人と一緒に仕事したい」とお客様に思われるような魅力ある人になってほしい。

2つめに、左脳だけでなく右脳をもっと鍛えてほしい。研修は知識やスキルの習得プログラムが多い。HOWばかり。みなさんには、もっとWHATとかWHYを考える脳を使ってほしい。要望を聞いてそれを技術的にどう落とし込むかだけでなく、「将来に向けてこういうこと必要じゃないですか?」とアイデアを持ちかけるような仕事を増やしてほしい。「できていないところを見つけて直す」の短所是正の発想だけだと、こういう頭が働かなくなってしまう。その文化を私は変えたい。

3つめに、部下にそういう姿を見せて、この会社は“自分”を出していいんだ、いろんな考えを出し合っていくんだ、という風土にしたい。違うものを出し合って、組み合わせで新しいものをつくる、そういう豊かな文化をつくろう、と事業部の幹部で決めた。

個人的な考えにとどまらず、それが経営陣の総意であるとも伝えました。
「皆さんが自分の価値観や特性をベースにして、自分はこれからの世の中に対して何ができたらうれしいか、社会の役に立つかを考えて、どんなリーダーになっていくか、自分なりのビジョンを持ってほしい」


自分にとっては当たり前の「得意」に気づく

冒頭で、じっくりと経営からの思いを聞いた後、「オリジナル価値探求ワークショップ」の前半セッションが始まりました。ワークを進める単位は5人一組、異なるセクションから集まったメンバーで編成します。事前に記入しておいた個人ワークシートを持ち寄り、子供の頃の体験、働くなかでの経験やお客様からのフィードバック、その時に感じたことなどをふり返って、今だから言えることなどを語ります。

聞く側のメンバーは、興味を持って質問します。その質問に答えるために、さらに自分の内面を深掘りし、自分はいったい何を大事にして判断し行動してきたのか、どうしてそう考えるようになったのか、周りからどういう影響があったのか、苦境や肝心なところで何を頼りに乗り切ったか、などを浮き彫りにしていくのです。

長所伸展のワークショップでは、自分にしてみれば当たり前だと思っていた特徴を「強み」として他の人が言葉に出してくれます。他人から見ると「強み」だと思える特性でも、自分には自覚できないことが多く、言葉になりにくいのです。

たとえば、Aさんは、子供の頃から、やりたいことをやり遂げるために親や兄弟の行動を観察し、作戦を練り、計画するのが得意でした。技術者として働き始め、子育てのために時短勤務を選んだあとは、限られた時間内で仕事の成果を上げるため、持ち前の計画性に拍車がかかりました。

実務リーダーとして、計画どおりに進捗しないときは、周りにこまめに声をかけ、計画を修正して、チームの仕事を着実に推進します。Aさんにとってはそれが当たり前のことであり、他の人もきっと同じようにやっているんだろうと漠然と思っていました。

ところが、ワークショップで他のメンバーから「それ、すごい!」「よくやり続けてるね」「どうやったらできるの?そのコツは?」と称賛の言葉をもらうことで、うれしい気持ちになると同時に、計画性が自分の得意技だということをあらためて認識しました。しかも、仕事上、生活上の必要に迫られたからではなく、昔から好きでやってきたことだと気づいたのです。だから、やり続けても苦にはならなかったのです。


職場にもどり、仕事の世界が新たに開ける

実務リーダーだった頃には、自部門の目標達成のために自ら計画して人を動かすことに優れていたAさんですが、その後、管理職になってからは、メンバーに主体的に計画してもらい、自分は相談が来たら乗る、というスタンスに変えていました。任せてみると、計画的に物事を進めることが意外にできない人がいて「イラっとした」時期もありました。

しかし、それが自分の特性だと自覚している今は、「計画の立て方」「計画の前に必要なもの」などをメンバーに教えています。そして、Aさんは仕事を任せることで捻出した時間を使って、部門を越えたビジネスプロジェクトのメンバーになりました。部長層のメンバーともフラットに関わる体制、新たなフィールドで持ち前の計画性、推進力を発揮しています。

「短所是正」の文化を変えようと経営陣が仕掛けた「長所伸展型」のワークショップ研修。これをきっかけに、Aさんたち参加者はそれぞれに自分の特性を自覚して、新たな仕事にチャレンジしています。

「自分ができていないところを直す」という「当たり前」の思考を見直して、「自分の強みをもとに、協力して成果を出すには?」と考えることで、柔軟に個々の特性を生かしたフラットなチームワークが生まれます。

このような、自分の仕事に対する問い直しが、人と仕事をどう変えていくのか、企業にどのような進展をもたらすのか。これからが楽しみです。

著者プロフィール

刀祢館 ひろみ

刀祢館 ひろみ

HIROMI TONEDACHI

持ち味は「鈍感力」とも言うべき、あえて空気を壊すテクニック。「雨降って地固まる」を体現するために、時に空気が読めない振りをして場を壊し、よりよい組織にまとめ上げることも。

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