その一言を待っていた!|コラム|スコラ・コンサルト
その一言を待っていた!

その一言を待っていた!

元吉 由紀子 | 2021.08.25

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その一言を待っていた!

「ここで話し合って決めたいです」とKが言う。「えっ!?そんな嬉しいこと言ってくれるの!」と心の中で叫びつつ、私は平静を装って議事を進行する。「わかりました。本日予定していた議題は保留とし、ご提案のあった件についての議論を始めましょう」。

◆人生初の転職

「副町長になってもらえない?」。令和2年某月某日、白石祐治江府町長からの依頼はあまりにも普通の問いかけに聞こえた。直前の論点を記録することに集中していた私は、特に聞き返すこともなく「お請けします」とあっさり答えてしまう。人生初の転職は、このように誰に相談することもなく、淡々と決定した。

私は、いま、その約束を果たし、鳥取県江府町の副町長として誠実に職務に励んでいる。わが町の人口は3000人に届かず、役場に勤務する職員の数も約100人。全国最小の鳥取県の中にあって最も規模の小さい自治体であり、御多分に漏れず、他の中山間地の団体と同様、少子高齢化の波に翻弄されている。

◆机上の空論

「いやいや、大したものだ、、、」。役場で仕事を始めてみると、前職の県職員時代に思い浮かべていた役場職員像は、次から次へと覆されていく。地域とダイレクトにつながり、住民の声から抽出した行政課題をアグレッシブに政策化してゆく、そんな理想はまさに「机上の空論」、勝手な思い込みだった。
住民からの「圧」に耐え、国・県の都合に振り回され、時間に追われながらも、信じられない広さの守備範囲を各々が担い、現場に飛び出して、なすべきことをコツコツと積み上げている。そして何よりも、自宅に帰れば、家族を守り地域を支える存在として周囲の人々から頼られているのである。「机上の空論」はたちまちどこかに姿を消し、粘り強くどこまでも明るい彼らに対して、一種の尊敬の念さえ抱くようになった。

だが、本当にそれだけでいいのか。期待に応えることは立派なことだし、大切なことだ。でも、それ以外にもきっと何かがあるだろう。
試してみたいプランでも、今とは違う地域の姿でも、風通しの良い職場環境でも。そんな未来を語ることを忘れていたり、あきらめてしまってはいないだろうか。私は、尊敬すべき彼らとともに、彼らの思う未来を語りたい。ともに取り組み、しくじり、反省し、チャレンジしてみたい。そんな思いが日に日に強くなっていく。

◆チャンス

「それをやるまえに、これで勉強してみたら?」。白石町長は、「前のめり」な提案の説明を続ける私を穏やかに諭す。教育長を含めた特別職の3人と役場の主要な課長が合宿して「オフサイトミーティング」に取り組んではどうか。それをきっかけに「役場の未来を語るチーム」を作りたい!そういう趣旨の提案である。「なぜ、それでも会社は変われないのか」という題名の書籍に刺激を受け、素人なりに(無謀にも)実践を試みようとしていたのだ。

町長から勧められたのは、株式会社スコラ・コンサルトが運営する「公務員のオフサイトミーティング 場づくり実践セミナー」。
気楽にまじめな話ができるオフサイトミーティングの場を設け、職場内や部門間の連携、地域での仕事を変えていくプロセスを学ぶことのできるセミナーらしい。月1回×4ケ月が一つのクールとして設定されていて、希望すれば次のクールに継続参加もできる。さらに受講料は「無料」である。私のために準備されたようなこの機会を断る理由があるはずもない。

◆晴れのち曇り

「売上という評価軸がないのが公務員の弱み」。参加したセミナーは、目から鱗の例えのとおり、私に新たな知識と手法と心構えを示してくれた。なにより、組織を変革していく手順が整理され、具体化のためのさまざまな手法が準備されていることが大きな驚きだった。そして、全国に「組織をもっと良くしたい」と頑張る公務員がいて、直接話ができる機会を得たことがありがたかった。

私の取り組むテーマは、最終目的である「合宿」実施の準備運動として、定期的に行われている「課長の集まる会議」を情報伝達と指示命令の会議から「未来を語る場所」に変身させること、と設定した。わかりやすい目標だったが、実践はなかなか難しい。定例の会議の場で新たな取り組みの提案をしてみても、参加者からの発言は、現状変更への不安や、予見される問題点の指摘に終始して、なかなか未来に目が向かない。加えて、決定後の動きも鈍い。一緒に未来
を語れる日は、来ないのだろうか、、、。

◆その瞬間がついに

「ここで話し合って決めたいです」。「(えっ、まじか!)わかりました」。飛び上がるほど驚いたが、冷静に提案を処理する。セミナーで受けた助言を試した途端、会議の参加者が自ら議題を設定し、この場で議論を進めたい、そう言った、いや言ってくれたのだ。冒頭に紹介したKの一言である。
4月から始めて、10回目の会議。冒頭の町長の挨拶から広がった話題を使って、会議という場を借りた「ややオフサイト的」な議論に出席者を誘いこんでみた。出席者の背負う所属長の職責とは無関係の、課長級のベテラン職員という共通の立場で議論できそうな論点だったからだ。

「今の件、ガイドラインを私が作って皆さんに示しますが、それでいいですか?」。私からの問いかけに、Kは身を乗り出して「ここで話し合って決めたい」と発言してくれた。それは私たちで議論すべき問題(未来)でしょう、顔にはそう書いてある。


◆これから

議論を通じて彼らが出した結論は、実に変わり映えのない内容に過ぎなかった。が、それからが凄かった。彼らは会議ののち、椅子に座ることなく決定事項を部下に伝え、自ら行い、不都合の調整を始めた。私の出る幕はなかった。
これからも「未来を語る」ことを目指した会議は、ときに盛り上がり、ときに水面のごとく静まり、あちらこちらに彷徨いながらも丁寧に回を重ねてゆくつもりである。「合宿」は延期にした。いつになるのか、誰と行うのか、すべて未定である。そのうちに開催の必要はなくなってしまうかもしれない。

鳥取県江府町
副町長 八幡 徳弘

▼江府町のHP
https://www.town-kofu.jp/

著者プロフィール

元吉 由紀子

元吉 由紀子

YUKIKO MOTOYOSHI

生活者起点で時代最適の価値を創造し続ける経営を実現できるよう、トップと現場の有志たちが連携・共振していくプロセスを一緒に築きあげている。

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