誰が推進する責任を持って立てるのか

これまでも計画を立てるときには、審議会を設定して一定の市民や専門家の意見をもらうこと、パブリックコメントを受け付ける期間を設けて広く一般住民からも意見を聞く機会を設けること、住民が参加できるワークショップを開催して計画づくりに参加してもらうことなど、各種の工夫がされてきました。

それに加え最近では、シナリオプランニングの手法を取り入れて戦略や計画づくりをするところが出てきています。この手法は、現在を起点として実現可能な目標に向かうフォアキャスティングとは異なり、めざす未来の姿を先に描き、そこからバックキャスティングして有効な戦略や事業を考えていくことに特徴があります。これは、将来が不確実で複雑で予測困難なVUCA時代の5年先、10年先の行政計画を立てるときに有効なやり方の一つと言えます。

ただし、この手法を行政で採用するときには、どうやって立てるのかだけでなく、“誰が推進する責任を持って立てるのか”ということに留意しておかなければいけません。

まだ新しいアプローチであることから、コンサルティング会社に委託して、コンサル任せになってしまってはいないでしょうか。もしくは、地域の計画だからと住民参加することにばかり注力して、行政職員が蚊帳の外になってはいないでしょうか。さらに、行政組織内部においては、案の作成を事務局任せにして、各部門は「検討会議」と名が付く場でも、実際には配布された資料について説明を受け、黙って了承するか部分的な注文や修正事項を述べるだけの関与に留まっていないでしょうか。

未来の予測が困難な計画には、計画を推進する途中に当初想定していなかったことや、一部の些細な変化と見受けられることが他のところに大きな影響を持つことがあるなど、種々の状況変化が起こり得ます。それゆえ、計画は立てるときよりも、推進する中で臨機応変に計画を見直していくことにより注力する必要が出て来るのです。

それゆえ、中長期の計画に係るシナリオプランニングを行なうときには、それを向こう何年も計画を実行する立場にある中堅職員がしっかり関わって策定することが重要です。未来をどのような条件、見通しのもとで描いたのか、どのような影響力を及ぼすと仮定して計画を策定したのかのプロセスに主体的に関わることで、その後環境が変わったときに、新しい要件のもとで計画を見直そうと言い出すことができるからです。この修正ができなければ、どんなにすばらしいシナリオプランニングによってできた計画も、やがて絵に描いた餅になってしまうことでしょう。

推進責任を持って計画策定に参画するためには

それでは、このように将来にわたり計画を実行し、必要に応じて計画を修正し得る中堅職員がその推進責任を持って計画策定に参画するためには、現在組織で意思決定責任を持つ経営幹部たちは、どのように関わればよいでしょうか。

まずは計画策定の目的と向かうべき方向性を定めたうえで、次世代の幹部候補職員を選定し、今の立場を超えて計画の推進と修正責任を含めた計画の策定を任せること、また、自分たちもできるだけ一緒に住民目線で議論に参画し、多様な参加者とともに体感しながら理解、納得するプロセスを共有しておくことが、その後の意思決定と対外的な説明責任を果たすうえで大切な関わりになってきます。任せた結果については、先行きの不透明さゆえ、つい疑問や欠点をみつけて指摘したくなるかもしれませんが、任せる人を決めた以上は余計な口出しをしないで見守り、よりよい成果が出せるよう全面的に協力し、バックアップすることが新たな役割になってきます。

ニューノーマル時代における組織マネジメントのあり方は、これからが試行錯誤の始まりです。今後も折に触れテーマをみつけてお伝えしていきたいと思います。