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8月末に、千葉県柏市で事業仕分けが開催されました。同市の事業仕分けは、昨年夏と今年2月の過去2回、そして第3回となる今回もまた、「対話型」で実施されました。
「対話型事業仕分け」は、事業のあり方と課題について、仕分け人との対話を通して、来場された市民の方たちも一緒に考えていくというコンセプトを持ち、事業の説明担当者が中央に座り来場市民に説明をする、会場を巻き込んだパネルディスカッションのような雰囲気が特徴です。
INDEX
これまでとの二つの相違点
柏市の「対話型」事業仕分けは、主に、以下のような目的を持って行なわれています。
・納税者である市民に対し、事業内容の説明責任
・事業の見直しや効果的運営のための改善
・行政への市民参画・協働の促進
・外部(市民、有識者など)の意見を聞くことによる職員の気づき促進
今回もこれらの目的は変わりませんが、これまでとは相違点が二つありました。コーディネーターの役割を、評価者の代表・座長ではなく、中立な司会進行役としたこと、そして、仕分け対象が「扶助費」助成事業となったことの二点です。「扶助費」とは、社会保障制度の一環として、生活保護法や児童福祉法など、被扶助者の生活を維持するために支給されている費用のことです。
「対話型」の事業仕分け
昨年度、私は同市の事業仕分けの座長を務めました。座長は、議論の進行役だけでなく、評価者の一人として評価結果を最終的に判断する決定権を持ち、積極的に突っ込んだ質問をし、説明の内容によっては、厳しいコメントや要望を述べる立場でもありました。この立場は、適正に判断をするために議論に集中しながらも、説明が市民にわかりやすく、十分に伝わっているかどうか、資料に表れていない背景情報を職員が伝えているかどうか、など、場全体と対話のプロセスにも意識を向けるという難しい役割です。
今回は、本来のコーディネーターとして、事前準備の段階から対話のプロセスづくりに意識を集中することができました。当日は、説明者の意図が伝わるように、仕分け人の質問を翻訳して繰り返したり、説明者から質問に対して的確に回答を引き出したり、進行に関して注意を促したりと、議論の焦点を明確にしながら「対話」を進めていきました。
最終判断は、コーディネーターの判断ではなく、仕分け人の多数決に委ねられます。複数の評価結果に同人数が分かれた時には、評価理由を聞いてから、最終評価がよりどこに近いか、ということをさらに議論する必要が生じました。
こういった問題はあったものの、説明担当者の事後アンケートには、「司会役がいたことで、誘導的な議論にならず、評価結果にもある程度納得できた」というコメントもあり、判定結果について6割以上の人が納得できるもの、と評価しています。
地方自治体が「対話型」事業仕分けを選択するのは、説明責任と事業担当者が事業のあり方を再確認し、改善のきっかけとすることが重要だと捉えているからです。柏市が今回、「扶助費」助成事業を仕分け対象としたのも、ここに意図がありました。
今、扶助費関連の申請・対象者は増え続け、今後もさらに増加することが予測されています。それに伴い、財政の支出も右肩上がりとなり、予算も年々増加しています。柏市の扶助費支給基準の多くは高度経済成長期に設定されたまま見直されず、国や県の基準を大幅に上回っているものもありました。
公共の使命ともいえる事業が、なぜ仕分けの対象になるのか。仕分け人の方たちも当初は戸惑い、日頃、使命感をもって福祉行政に取り組んでいる事業担当者からは、反発がありました。しかし、厳しい社会・経済情勢の中で、予算は限られています。このままでは、必要な助成がいきわたらなくなる恐れも出てきています。聖域と言われている福祉の分野においても、本当に必要な人に、効果的に助成されているのかどうか、限られた財源で公共の役割を果たすためにはどうあるべきかを、市民と共に真剣に考えなければなりません。だからこそ、「扶助費」助成事業を仕分け対象とし、義務的な事業を除いた37の事業の中から、仕分け人が10事業を慎重に選びました。
今回の評価結果における「市改善」の判断は、経費面ではなく、市が提供するサービスの量について行ないました。対象となった10事業の仕分け結果は、「不要・廃止」が1件、市改善の内、「抜本的見直し」が1件、「縮小」が5件、「維持」が3件となりました。なお、「扶助費」という事業特性上、「民間」という評価項目は除きました。
来場市民にとっても理解ができるような「対話型」
事業仕分けでは、「無駄だ」と判断される場合、多くは費用対効果、利用率(数)が基準の一つになります。しかし、なぜ利用者が少ないのか、ということを分析していくと、対象事業以外のところに問題を発見することもあります。
たとえば、今回対象となった「母子家庭自立支援教育訓練給付金」という、国の指定する講座を受講・終了すると費用が助成される事業は、平成20年度から開始されました。助成金の4分の3は国庫補助金で、4分の1が市の一般財源から支出されます。この制度の利用者が、21年度はゼロ、22年度は1人ということで、事業の必要性が問題となりました。補足資料には、利用率の低さは、給付までの手続きが煩雑であることが理由としてあげられていました。しかし、仕分け人からの事前質問や当日の対話を通してわかったことは、柏市では平成15年度より、独自に類似の資格取得助成制度を行なっており、こちらは対象資格の基準が緩やかで、資格取得後に申請できるという簡便さから、年20件から30件程度、利用されていたのです。
この事業の結論は、「廃止」ではなく、積極的な活用を促す改善を伴った「維持」となりました。市の単独事業が十分に利用されているから、利用されていない事業を「廃止」するのではなく、就業に結びつく訓練や資格取得によって、母子家庭の自立を支援することを目的とした国の助成金をもっと活用し、同時に市単独の一般財源の負担を軽減することが必要だという判断でした。手続きが煩雑で説明が大変な国の事業との統合は困難だということは理由にならない、重複した事業は、受益者にとってより有効な目的に近いものに統合してわかりやすくするためにも、今回の仕分け対象にはなっていなかった市の単独事業の方を見直すべき、というのが仕分け人からの指摘でした。
仕分けの対象となった事業を単体で評価することは、行政全体にとっての費用対効果や効率性といった観点からすると、改善のポイントをはずしてしまう恐れもあるのです。
今回の柏市版事業仕分けは、手話や筆記通訳も導入されました。説明担当者の問題意識と改善意欲を引き出し、仕分け人のチームワークを通して議論を深め、来場市民にとっても理解ができるような「対話型」にさらに一歩近づいたといえるかもしれません。