全社で始まった風土改革に対し、自分たちの問題として現場の自分たちも積極的に関わろうと、自主的に合流していった若手社員たち。
前編では、そのプロセスと彼ら自身の成長について取り上げました。
後編では、上層部の動きと並行して、現場層で展開する改革をどのように進めていけばいいのか、その進め方やバージョンアップのポイントなどを紹介します。
INDEX
現場で改革を進めるための5つのステップ
前編で紹介した改革グループの若手メンバーは、ほとんど接触のなかった他部署のメンバーや上層部との話し合いを通じて視野を広げ、全社改革の流れに乗って、部署間や階層間をつなぐ新たな動きを起こしていきました。
「自分はどうしたいのか」から、「5年後、10年後の会社はどうなってほしいのか、その中で自分はどんな仕事をし、どんな価値を提供していくのか」へと視座が高まることで、改革活動もステージアップしていきます。
ここでは、その過程をふり返り、現場で改革を進めていくための大まかなステップを紹介します。
Step1:話し合いの場を通じて、仲間をつくる
仲間づくりの第一歩として、現状に不安や不満、モヤモヤしたものを感じている、会社の動きや他部署の社員のことを知りたい、会社をもっと良くしたい、という人たちが集まって気楽に話ができる(オフサイトミーティングのような)場を設けます。
直接の声がけやメール、告知ポスターなどで開催を呼びかけ、関心のある人に参加してもらいます。
いきなり問題を出し合って意見交換をするのではなく、最初はお互いの人となりを知り合うところから始めます。まずは、立場や経験や考えの異なるメンバーが安心して意見を言い合い、ときには厳しく向き合えるような信頼関係をつくること。さらに、仕事や会社にまつわる思いや、感じている問題などについて話し合いを重ねながら、一緒に先へと進んでいく仲間を増やします。
Step 2:思いを可視化し、めざす姿や構想を未来図にする
自分たちが活動を通じてめざすものは何か、最初の数カ月、1年後、数年後にはどんな状態になっていたいのか。
メンバー同士でまず自由に思いを出し合い、書き出してみます。さらに、それを会社や部のビジョン、方針などと重ねて議論し、未来の姿として一つの絵や図に表してみます。この過程で、会社のビジョンなどへの理解も進み、それを具体化していく糸口が見つかったりします。また、個人それぞれの思いや志向性なども浮き彫りになり、個性や強みが見えてきます。
Step 3:スポンサー(支援者)となる上司を探す
若手の自主的な活動には、自身も改革が本当に必要だと感じ、改革を推進しようとしている組織的な支援者が必要です。
業務と並行して改革に取り組むためには、話し合いの時間を取ったり、外部交流に出かけたり、新たな課題のもとに業務改革に取り組むなどの動きを認め、公式な立場から情報やアドバイスをくれる上司、部長、役員などの応援が不可欠です。「この人」という人がいたら、機会をとらえて自分たちから話をしに行き、よき理解者、支援者になってもらいます。その際には、ステップ2で描いた未来図や構想を共有するといいでしょう。
Step 4:活動の目的と方針を共有して「チーム」になる
改革に取り組むメンバーは、目的を共有することで「チーム」になります。
そもそも何のために改革をするのか、それによって何を実現したいか、そのために自分たちは何を大事にするのか、どんな役割を果たしていきたいか、など。動くときの判断基準になる大事なことを活動スタート前にしっかりと話し合います。
そして、どのように実現したいのか、自分たちなりのストーリーをつくります。言葉の羅列で終わらせず、ストーリーにして“筋”で語れるようにすることがポイント。
共有しやすくなるだけではなく、それぞれが自分の思いを込めやすくなります。それをもとに活動の軸となる「活動方針」を明文化し、上司とも共有しておきます。それぞれが見ているものの違いから目的と手段を混同したり、実行段階に入った途端、アウトプット重視の活動に流れたりすることも多いからです。
Step 5:活動をスタートする
スポンサーから上層部へ働きかけをしてもらい、話し合いの場の開催など、改革活動を本格的にスタートさせます。メンバーはそれぞれ直属の上司にも活動の目的や内容を説明し、部署の課題と活動とのリンクや他部署との連携などに協力してもらうようにします。
ちなみに、ビジネス環境の変化が激しい今日では、社員の自発的な改革の動きを歓迎する社長や上層部も珍しくありません。前編で紹介した事例では、社長と有志社員の対話会を契機に活動がスタートしています。
改革をバージョンアップするためにやり続けたいこと
定常業務とは違う改革の取り組みは、思いどおりにいかないことだらけと言ってもいいでしょう。
さまざまな壁にぶつかりながらも着実に進めていくためには、コトに取り組む一方で、取り組みをバージョンアップしていくことが大切です。
【ポイント1】意味や目的を考える対話を続ける
改革活動には、良いときもあれば、うまくいかないときもあるもの。たとえば対話の継続ひとつをとっても、話し合いのメンバーが固定してマンネリになる、対話が意見交換になって堂々めぐりする、メンバーが変わるたびに議論が途切れて深まらない、成果を出すために目先の問題解決に走る、といったことが起こります。それによって違和感、物足りなさを感じるメンバーが増えると、活動に停滞感が出てくることがあります。
また、実行段階に入ると、「どのように進めるか」「いかにうまく進めるか」のほうに関心が移り、「何のためにやるのか」という目的や自分たちの描いた未来図との乖離が生まれることもあります。[対話(考える)⇒実行(やる)]ではなく、[対話(考える)⇒実行+対話(やりながら問い、ふり返り、考える)]というように、ベースとなる対話を続けていくことが大切です。それを繰り返す中で、「いつのまにか自分たちも風土も変化してきた」とは、つい先日、若手メンバーから出てきた言葉です。
前編の事例でも、メンバーはステップ2の「未来図」づくりにあたって、めざすものや目的を共有しながら、お互いの個性を引き出し合う話し合いを進めています。めざすものについては、それぞれの思いがあるために、時には意見がぶつかり合うこともあります。それでもメンバーは、相手の真意を聞き、妥協することなく、そもそもどうありたいか、どうしたいかを一段高いところで統合していくために粘り強く議論を続けました。
ステップ4でストーリーや活動指針を明確にしていくための議論もそうですが、自分たちが大事にするもの、軸になるものに関する徹底した議論をすることで、チームとして一緒に動いていくための信頼や理解の「土台」がつくられます。
このようなプロセスを通じて、お互いの状況や大事にしていることが見えるようになると、いきなりでも腹を割って話の本題に入れる、やっていることの意味や意図が理解でき、業務の状況がわかるから配慮できるなど、日常業務にもプラスに作用するのです。
【ポイント2】縦や横のつながりを広げ、当事者を増やす
風土改革のような息の長い変化・創造型の改革は、期間限定のミッション、メンバーで目標を達成していくプロジェクト活動とは異なります。会社や仕事の現状を変えたい、もっと良くしていきたいと主体的に関わる当事者が組織の縦横に増えていくこと、それによってチームワークが機能する範囲を拡大していくことが大切なのです。
有志で始まる改革も、結果として特定メンバーだけの活動になってしまうと、周囲との温度差や、“やる人とやらされる人”の構図が生じたりします。自主的な活動は、つねに必要だと感じた人たちが“自分のタイミング”で自由に加われるよう、オープンな巻き込みができるようにしておくことがポイントです。
そうした周囲への働きかけを続けることによって、似たような目的の活動があちらこちらで立ち上がってくることもあります。そういう状況が生まれてきたら、活動間で目的を共有し、協力しながら相乗効果を高めていくため、全体を見て調整や統合をしていく“つなぎ役”として、超階層の事務局機能も大事になってきます。
【ポイント3】節目ごとにふり返り、目的確認をし、次のシナリオを考える
活動のふり返りは、つい反省点、マイナス面に目を向けがちですが、今までになくできたこと、小さなことであっても変化したことに目を向けて共有することがポイントです。なぜなら、改革の渦中にいる当事者たちは、新しい体験をしながら手探りで前に進むことに集中しているため、立ち止まって、自分たちを客観的にみる余裕がありません。
その意味で、折々にメンバーが集まって、刻々の小さな変化、小さな成果をお互いで確認することは、活動を続けていく上でのモチベーション、成長実感になるのです。
それと同時に、活動が進展する中で、そもそもの活動の目的を確認すること。さらに、活動方針と照らし合わせて、次の展開シナリオやテーマを“現時点”から見直すなど、要所要所で目的に立ち戻って考えるための時間をつくるようにします。
どうしていいか迷子になったときも、そもそもに立ち戻ったり、自分は何がやりたいのだろう、と問い直すことは思っている以上に意味があるものです。
自分と会社が幸せに変化していくオーナーシップ
風土改革と業務は、裏表の関係で切り離せないもの。風土改革は仲良し組織をつくることではありません。日常業務の中でも対話を通して事実・実態を見ながら問題を解決する、部署のありたい姿を共有しながらオーナーシップ(=当事者意識と責任)を持って仕事をするーーそんなメンバーが増えていくことで、外部の変化に対して自らも変わり、柔軟に対応していく組織になることをめざします。また、個人にとって仕事にオーナーシップを持つことは、やりがいや楽しさにもつながります。
多くの縦割り組織では、ともすれば全体最適視点が希薄になって、他部署のことには無関心、問題があっても口を出さない、そのうち問題を見なくなる、感じなくなる、といった負のスパイラルに陥りがちです。変化の時代に必要な人材育成や未来づくりよりも、緊急性の高いこと、目先の問題解決ばかりに汲々とせざるを得ない企業もたくさんあります。
組織として風土改革に取り組み、若手の自発的な動きを支援すること、若手ならではの柔軟性、行動力を引き出すことが、そうした閉塞状態を打ち破っていく突破口になることもあるのです。
会社と方向性を共有し、上司や仲間と協力しながら現場の若手が主体となって進める改革の取り組み。業務とは違う「改革」経験の中で、現状打開の当事者として手探りしながら行動するプロセスを通じて、若手社員は大事なものに気づき、新しいやり方を身につけていきます。今よりも高い(一階層上の)視座で議論や提案ができるようになるのも、こうした新しい経験のたまもの。それは個人にとって成長の糧であると同時に、若い社員がいきいきと意欲的に考え動くようになる、会社にとっての活力にもなるのです。