変革を起こしていくのに必要なリーダーの行動指針

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前2回で西本さん、一谷さんというタイプの異なる二人の「変革推進リーダー」をご紹介した。今回は、二人の事例から、実際に変革を起こしていくのに必要なリーダーの行動指針を考えたい。もちろん大前提として「会社をよくしたい」という思いがあることは言うまでもない。大きく三つのポイントを抽出してみた。

・自分の足元を変えていく
・人とのやりとりを大事にする
・ダメもとで動いてみる

自分の足元を変えていく ~「会社を変える」から「仕事を変える」へ~

どこの会社にも「このままではいけない」「会社を何とかしないと」と威勢のいい発言をする人がいる。こういう場合、多くはその人の周りの問題状況を客観的に見て言っている。それはそれでいいのだが、問題のとらえ方が「自分も含めた領域」なのか、「自分を含まない領域」なのかで、解決への思考・行動がまったく違ってくる。後者であれば、解決の対象が自分ではないため、解決の当事者でなくなる。たとえば「うちのトップ」「自分の上司」「隣の部署の担当者」といった自分以外の人間の問題になる。

西本さんは、今の自分たちの仕事のやり方だと顧客の要求に応えられないという危機感を伴った問題意識を自分の仕事の中に見出していた。また、一谷さんは自分の立場(国内商品部長)として、部下や組織が動きやすくなるために、重要ではあるが漠然としたトップのメッセージを翻訳し伝える必要性を、当事者として感じていた。
二人に共通するのは、自分の仕事あるいは自分が関わる領域を、このままではうまく回らないという危機感を持って変えていった、ということだ。もちろん「自分を含めて会社全体を変える」という考え方もあっていいのだが、実行性から考えると具体性に欠ける。
自分が当事者として具体的に変えていけるのは、まさに自分の仕事の領域なのだ。

人とのやりとりを大事にする ~「一方的な力関係」から「双方向の協力関係」へ~

「変える」といっても、一人では無力である。大きな力にするには仲間が必要だし、トップの「変える」方向性を共有しておくことも必要だ。そういった観点から、二人とも他人とのやりとりにかなり時間をかけている。「やりとり」というのは、対等の立場で話し、聞く行為をいう。立場で考え動く会社という組織の中ではなかなかありえない行為だ。一谷さんは社長とのやりとりを頻繁に行なって、トップの方向性を確認するのに時間をかけているし、商品企画室長時代にも今までのやり方を変えるに際して、部下や同僚とその方向を共有するために何回もやりとりの「場」をつくっている。
西本さんは、設計部門や生産部門の現場の仲間とのやりとりを大事にしてきた。具体的に現場で変革の動きをつくれるようになったのはトップが方針を打ち出してからだが、以前から、設計・生産改革という「自分のやりたいこと」について人をつかまえては話していた。
もともと、上ばかり向いている上司や自分の仕事のテリトリーに固執する他部署の担当者に対する不満が問題意識の原点だった。そのため、他人に対する悪口が目立ち、後ろ向きの発言が多く、一方的にまくし立て、人を遠ざけていた。しかし、徐々に顧客との接点が増えてくると、それに応えるにはどうしたらいいのかを考えるようになり、他人の意見に耳を傾けることも増えていった。そういった西本さん自身の問題意識の変化も、周りとのやりとりを促すことになった要因である。
当たり前のことだが、トップと現場とのやりとり、現場の中でのやりとりがあって初めて、組織は一つになる。つまりトップの意思が現場の具体的な動きにつながり、トップと現場とが共鳴しながら動いていける。そのために必要な「立場を超えて協力していける関係」を築くテコになるのが変革推進リーダーなのだ。

ダメもとで動いてみる ~「机上での計画・立案」から「現場でも実行・検証」へ

二人に共通するのは、失敗を恐れてあれこれ悩み過ぎたり、精緻な計画に全エネルギーを注ぐのではなく、失敗を恐れずにまずはやれることから一歩を踏み出してみる実行力だ。
一谷さんは、たとえば社長の示すコンセプトを翻訳して社長に持っていくときに、「間違いのないものを書かなければ」「社長の意に沿うものを」とは考えなかった。担当者に伝えるために自分の理解を深めることが目的だから、自分なりの視点を社長にぶつけてみたに過ぎない。また、ナイト・オフサイトミーティングも、こうすれば共通理解が図れると確信をもって開催したわけでもない。他に手段がなかったから最善の策を実行したのだ。
西本さんは自分がいいと思ったら、とにかく人に話してみる。話し相手も「いいね」「面白いね」となったら、「やってみよう」と実際に今のやり方を変えてみる。うまくいったら「万歳!」だし、失敗したら「別の手を考えよう」で終わる。そんないい加減な、という意見もあろうが、それは答えがない時代の行動原則ではないだろうか。トヨタの現場改革では「ダメもと」活動とも言う。
変革への取り組みとは直接の関係はないが、西本さんは自らの言動が災いして上司の心象を悪くし、結果的に何回も職場を変わる羽目になってしまった。しかし、不満をぶつけるだけでは敵をつくるばかりで協力者を得られず、実質的には何も変えられなかったという失敗経験が、西本さんの成長の源になっているのもまた事実だ。長い目で見れば、実行レベルで失敗をたくさん経験した人がリーダーとしての成長スピードも速いということだろう。

目利きの存在と活躍の場

最後に、二人には自分の資質や思いを発揮できる環境があったということをあげておこう。もちろん、自分が日頃から変革の必要性を主張していたからこそであろうが、その資質を見抜き、思いに共感し、認知して、応援したスポンサーたる幹部の目利きとしての役割を抜きにしては語れない。
今「変革リーダーがいない」「変革リーダー出でよ」といった声が大きいが、私に言わせれば、変革リーダーの芽は確実に存在するのだから、その芽を発掘し活躍できる環境をつくる「変革のスポンサーよ出でよ」と、声を大にして叫びたい。